吉本実憂、“逃げたくない夢”は「役者としてたくさんの人にちゃんと心に届く作品を作ること」

吉本実憂にインタビューを実施
撮影:月島勝利

稀代の名バイプレイヤー・光石研にとって12年ぶりの単独主演作となる映画「逃げきれた夢」が、6月9日(金)より東京・新宿武蔵野館、シアターイメージフォーラムほか全国にて公開。同映画は俳優としても活躍する二ノ宮隆太郎の商業映画デビュー作で、光石扮する人生のターニングポイントを迎えた教師・末永周平が、新たな一歩を踏み出すまでの日常を描く。このほど末永の元教え子である平賀南役で出演する吉本実憂にインタビューを行い、役への思いや演じる上で大切にしたこと、自身の“ターニングポイント”について語ってもらった。

――今回演じた平賀南という役はオーディションで決まったそうですね。

吉本実憂:北九州フィルムコミッションさんが北九州を映画の町にしようと頑張っていることを知っていましたし、私自身も地元の北九州が舞台の作品に出たかったんです。主演が(北九州出身の)光石さんで、監督が二ノ宮さんということもあって、これは絶対に勝ち取りたいと思いました。

――二ノ宮監督は「内に秘めた思いを表現するお芝居が素晴らしかった」と絶賛されていたと伺っています。

吉本実憂:作品の資料を読んで「監督はこういうことを言ってくださっていたんだ」って初めて知りました(笑)。オーディションの時に自己アピールをする時間があり、他の方々は名前だけ言って終わりだったのですが、私自身伝えたい想いがあったので、言わずに後悔するより言って後悔するほうがいいかなと思ってたくさん話しました。

――手応えはありましたか?

吉本実憂:最初は愛知県から転校してきたという設定だったのでセリフが標準語だったんです。でも、オーディションの時に「標準語と北九州弁の両方やってみてください」と言われて。北九州弁で話している時にすごく自然な感じで役に入れた気がしたので、それが良かったのかなと思います。

――主演の光石研さんも北九州出身ですしね

吉本実憂:北九州弁を受け取ったり、私が発したりするお芝居がすごくやりやすくて楽しかったです。

――脚本を読んだ時にどんなことを感じましたか?

吉本実憂:自分が演じる平賀南の視点で読んだ時に、最後の喫茶店のシーンのところでなぜか涙が出てきたんです。たぶん、当時自分が感じていた不安みたいなものと南の葛藤がリンクして共感したのかなと。いろいろなものが細かく刺さってくるような作品だなと感じました。

――当時は、どんなことに不安を覚えていたんですか?

吉本実憂:撮影していたのは24歳の時で、もともと自信がない人間なので将来に対しての不安で落ち込んでしまうことがあったんです。ちょっと期間が長いですけど、10代後半から20代前半ってまだいろいろなことが定まっていないけど自分の中ではやりたいことがある難しい時期。だからこそ、悩みを抱えている南への共感度が高かったような気がします。

――南を演じる上で心掛けていたことはありますか?

吉本実憂:役作りをする時に自分のどの部分を使うのか。自分の人生の中でリンクするものを探しながら役と向き合うことが多いんです。今回は北九州で生まれ育ったという役。私も北九州出身なので自分の人生で経験したことをたくさん使えるなと思いました。

私は決して二重人格というわけではないですけど、すごく明るい部分があるし、すごく落ち込んで暗くなってしまうこともある。南の場合は、その落ち込んでいる時の「陰」の自分を軸に置きながら演じていました。

――確かにハキハキしゃべるタイプのキャラクターではないですよね。

吉本実憂:南は他人のことをそんなに気にせず自分のことだけを考えて生きてきた感じの子。これは勝手なイメージですけど北九州特有なのかなと思っていて。決して荒い町ではないんですけど、どこかに“這い上がってきた”という精神みたいなものが自分の中にもあって、北九州の方と出会うとそれをすごく感じるんです。

私の友達も負けず嫌いが多いというか、南みたいに何を考えているのか分からないような子も多くいた気がします(笑)。そういう地元の方たちの泥臭さが好き。ただきれいな町というだけではない深みがあるところが北九州の魅力なのかなと。人間性も好きだから地元に帰るのがすごく楽しみ。そんな雰囲気が南にも出ていたらいいなと思います。

――光石さん演じる末永先生と、かつての教え子である南の関係についてはどんなふうに思いながら演じていましたか?

吉本実憂:私の勝手な設定で、先生は生徒だった南が将来について相談した時にはっきり言ってくれたと思うんです。でも、時間がたって、先生自身も自分の体の変化に気付いたことで人生の岐路に立たされてどうすればいいか分からなくなった。

南にとってもターニングポイントというか、将来への不安やいろいろな葛藤を抱えていた時期だったので、心にグサッと刺さるようなことを言ってくれない先生にイライラしてしまう。そんな感情を意識しながら向き合っていました。南自身も頭の中がごちゃごちゃしていたから、どうしたらいいのか分からなくなっていたんだと思います。

――今「ターニングポイント」というワードが出てきましたけど、吉本さんにとっての“転機”はいつですか?

吉本実憂:昨年9月にお仕事で3週間ぐらいニューヨークに行かせてもらったんです。3日に1回オーディションがあるような企画でドキュメンタリータッチだったから、受かる、受からないは関係なくずっと撮られていました。

その時にアル・パチーノやロバート・デ・ニーロ、私が大好きなロバート・ダウニー・Jr.も卒業した演劇学校でオーディションをする回があって。私にとって憧れの場所だったから演じる前からずっと手が震えるぐらい緊張したんです。

日本では経験したことがない感じだったんですけど、結果的に合格して。審査員の方から「心の揺らぎが素晴らしかった」という言葉を頂いたんです。感情にうそをつかず、お芝居と真剣に向き合って来てよかったなと。1つのターニングポイントになったというか、これからも頑張りなさいって背中を押してもらったような気がしました。

――作品のタイトルは「逃げきれた夢」ですが“逃げたくない夢”は何ですか?

吉本実憂:ターニングポイントの話とつながっているんですけど、17歳の時に役者としてたくさんの人にちゃんと心に届く作品を作るんだって決めたんです。本気で決めた自分の夢は最後までやり遂げたいと思っているので、そこから逃げるつもりはありません!

――最後にゆる~い質問を。南は定食屋さんで働いていますが、吉本さんが好きな定食メニューは?

吉本実憂:親子丼か唐揚げ定食。白身魚も捨てがたいですね。親子丼は以前「さくらの親子丼」(フジテレビ系)というドラマに出演した時にハマってしまって。親子丼を食べると(主演の)真矢ミキさんのことを思い出して頑張れるんです。親子丼は温もりを感じるから好き。唐揚げは衣の味付けや塩加減などで、そのお店の感じが分かるような気がして。自分の好きな味かどうかが判断できますよね(笑)。

――ちなみに、親子丼の卵は半熟派? それとも堅め派?

吉本実憂:半熟じゃないタイプが好きです。スクランブルエッグとかも結構しっかり焼きたいです。

◆取材・文=小池貴之

【プロフィール】
よしもと・みゆ/1996年12月28日生まれ、福岡県出身。全日本国民的美少女コンテストグランプリを受賞し芸能界デビュー。2014年に「獣医さん、事件ですよ」(日本テレビ系)でテレビドラマ初出演、同年12月には映画初出演で初主演作品となる映画「ゆめはるか」が公開される。その後ドラマ、映画を中心に活躍。2021年、第30回日本映画批評家大賞 新人女優賞(「瞽女 GOZE」)を受賞。
<主な出演作>「罪の余白」(2015年)、「レディ in ホワイト」(2018年)、「JK☆ROCK」(2019年)、「透子のセカイ」(2020年)、「大コメ騒動」(2021年)、「あの時、長崎。」「消えない虹」(2022年)

【衣装クレジット】
イヤリング:KOH’S LICK CURRO  ワンオール :Re:EDIT/The.PR  パンプス:HYPER COUTURE

【スタッフクレジット】
ヘアメイク:小嶋絵美 /スタイリスト:難波雅恵

【公開表記】
映画「逃げきれた夢」
6月9日(金)より新宿武蔵野館、シアター・イメージフォーラムほか全国ロードショー
出演:光石研 吉本実憂 工藤遥 坂井真紀 松重豊
監督・脚本:二ノ宮隆太郎
制作プロダクション:コギトワークス 
配給:キノフィルムズ
©2022『逃げきれた夢』フィルムパートナーズ

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