2024-02-05 06:00

すべての球団は消耗品である「#16 1991年の金田ロッテ編」byプロ野球死亡遊戯

すべての球団は消耗品であるbyプロ野球死亡遊戯「1991年の金田ロッテ編」
すべての球団は消耗品であるbyプロ野球死亡遊戯「1991年の金田ロッテ編」
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勝っても、負けても、いつの時代もプロ野球球団はファンに猛スピードで消費されていく。黄金時代、暗黒期、泥沼から抜け出せない低迷期。ファンは、そして僕たちはいい時も悪いときもそんな刹那の瞬間に快楽を求めているのかもしれない。

かつて、天下の美空ひばりから「兄ちゃん」と慕われたプロ野球選手がいた。

金田正一である。国鉄スワローズ時代は、「ワシが投げる」なんつって自ら勝手に投手交代を告げるなど「監督を監督していた」という伝説を持つ泣く子も黙る400勝投手。1969年に巨人で現役生活を終えると、72年秋から39歳でロッテ監督に就任。青年指揮官は首都圏に本拠地を持たない(73年は26試合を仙台で主催した)流浪のチームを率いて、74年には毎日オリオンズ時代以来24年ぶりの日本一を勝ち取った。自らコーチャーズボックスに立ち、派手なアクションの“カネやんダンス”で球場を盛り上げ、当時は不人気だったパ・リーグの救世主的な存在に。一方で豪放磊落ガチマジセクハラキャラで知られ、78年の監督退任後に連載開始された『週刊ポスト』の「カネやんの秘球くいこみインタビュー」は、もはや都市伝説化している。

第1回の山口百恵に始まり、アイドル、女優、女子アナまでゲストに呼び最初から最後までひたすら猥談をかます異端の連載。彼女たちに今日のお天気を聞く口調で「セックスは好きか?」と「カンチ、セックスしよ!」風に斬り込み、山本リンダには「これノーパンティと違うかね?」なんて「誠意ってなにかね?」的におもむろに問い質し、女優の三田佳子に「穴入れはゴルフで十分(笑)。佳子ちゃんなんかどう?」と人類史上最低レベルの質問を投げかける現代なら即アウト、いや当時でも巨人時代のドン川上哲治からマジで叱られたというクレイジーな内容で、さらに同誌では「カネやんの激写楽!」コーナーまで持って自らカメラを構え、ヌード撮影するフリーダムすぎて危険な香り漂う400勝投手であった。

そんなカネやんがバブル好景気真っ只中の1989(平成元)年10月27日、12年ぶりにロッテ監督に復帰した。チームの編成や補強を全面的に担うだけでなく、球団取締役も兼ねる56歳の全権監督の誕生である。しかし、復帰1年目の90年シーズンは、6月の西武戦でボーク判定に激昂して、「どこがボークや!」なんて審判に殴る蹴るの暴行を加え、罰金100万円と出場停止30日間という前代未聞の事件を起こし、チームは首位西武に25ゲーム差も離され5位に終わった。長年エースを務め、車のハンドルからドアの取っ手まで人さし指と中指で挟む狂気の日々で必殺フォークボールを身につけた村田兆治が10勝を挙げながら、「余力を残してマウンドを去るのがエースの美学」と引退。

その穴を埋めるべく新エース候補として90年秋のドラフトでは亜細亜大の小池秀郎を強行1位入札すると、史上最多タイの8球団の競合を引き当てる奇跡……のはずが、小池サイドから「ロッテ、阪神の2球団だけには絶対行きたくない」なんて秒殺。史上最高の契約金1億5000万円を用意して、「もし、ワシのことがイヤだというのなら、ワシが監督をやめても構わんから入ってほしい。この金田、球界のために身を引きます。本気だよ」と古巣の『週刊ポスト』誌上でラブコールを送るも、あっさり入団拒否されてしまう。

そして、迎えたカネやん逆襲の91年シーズンは、球団も心機一転「ケチ、暗い、汚い」の3K球団と揶揄する声を吹き飛ばし、集客アップを狙い「テレビじゃ見れない川崎劇場」と4億6500万円かけてポスターやテレビCMを制作。老朽化の進んだ川崎球場も川崎市が14億円を投じて改修工事を敢行した。指揮官は成人式の挨拶に立ち「小池? あんなものはどうでもいい。皆さん、絶対に小池の真似はするなよ」なんて声高々に叫び、キャンプについては「90年はチームのことが分からずにゆっくりやったが、91年は2月1日からビシビシやる。なんとしても、“第二の小池”を育ててみせる」とスパルタ宣言……って入団拒否の件めちゃくちゃ根に持ってるよカネやん!

シーズンを通して活躍した選手には、昨年のサファイアに続き、ルビーの指輪をプレゼントする規格外の監督賞をぶち上げ、「どうや、高価な指輪やろ! 100万や200万の代物やないで」とバブルの不動産王のように笑うカネやんであった。

3月のオープン戦で2試合連続の完封を喫すると「今日のインタビューはダルマ! 分からんか? 手も足も出ないってことや」と笑いを強制するカネやんギャグをかまし、ペナント開幕の西武戦で2対14の大敗を喫して、怪力助っ人ディアズが相手の伊原春樹コーチとヤジ合戦となり連盟から注意されると、「挑発するのが西武の手なんや。コーチとか非戦闘員がヤジったりしたら断じていかん!」と怒り心頭。その頼みの大砲ディアズが打撃不振に陥ると、「あいつはお山の大将や。ロッテの顔でもなんでもない。あいつの代わりに凄い外人を探しとる。デカい顔はさせん」と5月5日に一軍登録抹消。10日には球審のボール判定に激怒して、監督自ら「バカヤロー!」発言で日本最多の通算8度目の退場処分。厳重注意と制裁金5万円なんか屁みたいなもので、19日の近鉄戦でも乱闘騒ぎで「キャネダァァ!」なんつって突進する近鉄の助っ人トレーバーがコケた瞬間、カウンターでその顔面にカネやんキックを食らわせ、トレーバーのオデコにはスパイクの痕がくっきりと残った。怒り狂ったトレーバーが襲撃に来るという噂も立ち、翌日は護身用の短いバットを持って球場入りする指揮官であった。

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中溝康隆プロフィール

なかみぞ・やすたか(プロ野球死亡遊戯)|1979年、埼玉県生まれ。大阪芸術大学映像学科卒。ライター兼デザイナー。2010年10月より開設したブログ『プロ野球死亡遊戯』は現役選手の間でも話題に。『文春野球コラムペナントレース2017』では巨人担当として初代日本一に輝いた。ベストコラム集『プロ野球死亡遊戯』(文春文庫)、『原辰徳に憧れて-ビッグベイビーズのタツノリ30年愛-』(白夜書房)など著書多数。『プロ野球新世紀末ブルース 平成プロ野球死亡遊戯』(ちくま文庫)が好評発売中!

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BUBKAレポート
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・すべての球団は消耗品であるbyプロ野球死亡遊戯
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