ハードコア巨人ファンは、なぜ令和に“西武時代のキヨハラ”を書いたのか?

プロ野球・西武ライオンズ時代の清原和博選手

「BUBKA」で連載してきた「なんてったってキヨハラ」を単行本化した、『キヨハラに会いたくて 限りなく透明に近いライオンズブルー』で西武時代の清原和博にスポットを当てたプロ野球死亡遊戯こと中溝康隆。彼は周知の通りの巨人ファンではあるが、なぜそんな彼がいまあえて西武時代の清原を書こうと思ったのか? 「なんてったってキヨハラ」“完結編”となるモノローグ的エピローグ。

巨人の番長ではない。ということ

「君、ジャイアンツファンだったっけ? 今夜のドームのチケット、予定が入っちゃって、2枚あるから誰か誘って行けば?」

これは99年6月1日放送、フジテレビの人気ドラマ『古畑任三郎』で田村正和と対峙する犯人役を演じた福山雅治の台詞である。いつの時代も素人ナンパモノDVDとドラマの完全犯罪計画はリアリティが命だ。巨人戦チケットが普通の日常生活を演出する小道具として登場する世紀末ニッポンのリアル。ちなみにドラマの放送日、6月1日の中日戦で実際に巨人の四番を打ったのは清原和博で先発投手は桑田真澄。その様子はもちろん地上波ゴールデンタイムで生中継され、99年巨人戦の年間平均視聴率は20パーセントを突破した。夜7時から2時間はKKコンビ、直後の21時からはフルハタ。もちろん真夜中には『ワンダフル』と『トゥナイト2』。あの頃、俺らの心の視聴率ベスト10はいつもそんな感じだった。

だが、この99年シーズン、32歳の清原は度重なる故障に悩まされ、打率.236、13本塁打とプロ入り以来最低の成績に終わった。巨人移籍3年目の宮崎キャンプ中、左ヒザに自打球を当ててリタイア。ウサ晴らしで飲みに行くと、アルコールで血行が良くなり患部が腫れ、出血して病院に運ばれマスコミの格好のネタに。開幕後は阪神の藪恵壹から左手に死球を受け亀裂骨折。追い打ちをかけるように週刊誌では、裏社会の人物との“黒い交際”トラブルが報じられた。もはや、西武時代の爽やかスマイルとライオンズブルーが似合うキヨマーの面影はなく、ジャイアンツブラックに染まった悩める番長の姿。ガキの頃、「旦那さんになにかあったらボクに言ってください」と原辰徳夫人にファンレターを送るハードコア巨人ファンかつ地元埼玉のアイドル清原を追いかけてきた自分でさえ、YGマークの番長にはまったくノレなかった。決して、嫌いになったわけじゃない。ただ、サヨナラアーチでホームに帰ってきた選手のケツにカンチョーをする、もしくはベンチ前で若手にプロレス技をかける、あの都会でイキるお山の大将キャラにノレなかったのだ。人数合わせで呼ばれたしみったれた合コンのように、好き嫌いの前に感情が動かなかった。

「正直、巨人時代のキヨハラは、ひとりだけ超おじさんに見えましたね」

90年生まれの担当編集者O君がそう言ったのをよく覚えている。ブブカ本誌で原辰徳を書いた連載が一冊の本になり、次の連載候補のひとつとして清原の話題になった時のことだ。巨人ファンの父の影響で物心ついたときから野球に熱中したO君は、毎日のようにオヤジの横でテレビの地上波ナイター中継の洗礼を浴びた。松井秀喜が巨人の若き四番打者として定着する時期、慶応大から巨人入りした天才バッター高橋由伸はイチロー級の人気を誇りCMで広末涼子と共演。O君は機敏な動きのセカンド仁志敏久が好きだったという。だから、すでに30歳を超えていた清原が恐ろしく老けて見えた。しかも、日韓W杯の開催に向けてサッカー界には中田英寿、小野伸二、稲本潤一といった若いスター選手もこぞって登場。まるで、田原俊彦とSMAPを比べるような、残酷なほどの古さと新しさのコントラスト。少年たちにとって、トシちゃんキヨちゃんビンビン物語は悲しいくらいに古かった。

そらそうよ。西武時代を描く漫画『かっとばせ!キヨハラくん』は愛読しても、巨人編の『モリモリッ!ばんちょー!! キヨハラくん』は全然笑えなかった。でも、平成生まれの世代にとって、清原と言えばその笑えない“巨人の清原”なのである。彼らはフェラーリを愛し、バブルに愛されたライオンズブルーの背番号3を知らない子どもたちだ。だが、俺は「サウナのサ活が流行ってるなら、洗体エステで下半身を整える“セン活”を書くってどうですかね?」なんつってショックのあまり意味不明な連載テーマを口走りながらも、どこか頭の中がクリアになった気がした。偉大な長嶋や王ではなく悲運の「4番サード原辰徳」が輝く時代を書いたように、巨人の番長ではなく「西武のキヨマー」を書くのが、西武ライオンズが所沢に移転した79年生まれの自分の仕事ではないかと思ったのだ。

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文=中溝康隆

中溝康隆=なかみぞ・やすたか(プロ野球死亡遊戯)|1979年、埼玉県生まれ。大阪芸術大学映像学科卒。ライター兼デザイナー。2010年10月より開設したブログ『プロ野球死亡遊戯』は現役選手の間でも話題に。『文春野球コラムペナントレース2017』では巨人担当として初代日本一に輝いた。ベストコラム集『プロ野球死亡遊戯』(文春文庫)、『原辰徳に憧れて-ビッグベイビーズのタツノリ30年愛-』(白夜書房)など著書多数。『プロ野球新世紀末ブルース 平成プロ野球死亡遊戯』(ちくま文庫)が好評発売中!

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