田村潔司「解析UWF」第12回…前田日明が主宰するリングスに移籍

1997年1月22日、日本武道館で開催されたメガバトルトーナメント決勝での田村潔司vsヴォルク・ハン
写真提供=平工幸雄

1996年、リングスに緊急移籍を決めた田村潔司。デビュー戦となるディック・フライ戦に勝利しデビューを飾った田村であったが、そんなリングスで田村を待ち受けていたのは今までのUWFのスタイルとは全く異なる海外勢の進撃だった。リングス前田日明が受け継いだ猪木イズムに思いを馳せる世紀末。

1996年6月、ボクは5年間在籍したUWFインターナショナル(Uインター)を離れ、前田日明さんが主宰するリングスに移籍した。

Uインター時代、じつはリングスの試合を観る機会はあまりなかった。リングスはUWF系で唯一WOWOWの月一回放送があったけれど、うちは当時WOWOWに契約していなかったのでテレビでも観る機会がなく。藤原組やパンクラスは、新生UWF時代に近い存在だった船木さん、鈴木みのるさん、冨宅(飛駈)たちがいたのでカッキー(垣原賢人)と一緒に何度か会場まで観に行ったけれど、リングスはそういった“知り合い”がいなかったので、専らプロレス専門誌を通じて情報を仕入れる程度。

だから、リングスがどんな試合をしているのか詳しくは知らず、Uインターとそれほど変わらないだろうと思っていたのだけれど、いざ、実際に試合をしてみると、Uインターとリングスは同じU系ではあるけれど、似て非なるものだと感じた。

いちばんの大きな違いは「プロレス」をベースにしているかどうかの違いではないかと思う。Uインターは新生UWFの多くの日本人選手がそのまま参加していたし、外国人選手も従来のプロレスを経験している人がほとんどだった。だからゲーリー・オブライトにしてもダン・スバーンにしても、もちろんベイダーにしても、プロレスとはなんぞや、プロとはなんぞやが分かっている人たちが、UWFの格闘技スタイルのルールで闘っているのがUインターのリング。

一方でリングスは、前田さんがたったひとりで始めたので、プロレス経験者は前田さんただひとり。日本人選手はリングスでデビューした数人で、その他は、オランダ、ロシア、グルジア(ジョージア)といった国のキックボクサーやサンボ、コマンドサンボ、柔道、レスリングなど、さまざまなジャンルの格闘家たちだった。

つまり同じUの格闘スタイルをやっていながら、プロレス(プロフェッショナルレスリング)をベースとしたUインターと、世界各国さまざまな格闘家が集まったリングスとでは、アプローチのベクトルがまったく逆なのだ。

その違いは「興行論」に現れる。通常、プロレスでもっとも大事なのは、興行を成功させること。だから時には自己犠牲が必要にもなってくる。メインイベンターにはメインイベンターの役割があり、中堅には中堅の、前座には前座の役割がある。それぞれが役割をまっとうし、メインイベントに向かって興行を盛り上げていき、最後は実力もカリスマ性も兼ね揃えたメインイベンターがしっかりと締めて、観客を満足させて帰らせる。髙田さんという絶対的なエースを中心に、Uインターはそれができていたと思う。そういった意味でUインターは、選手それぞれが自分の役割をはたしてひとつの興行を作り上げる「団体」だった。

一方でリングスは「団体」という感覚は希薄で、みんなで共有する「場」という感覚だ。興行を成功させるためにそれぞれが役割をはたすというより、その場で誰が輝くかを競っていた印象がある。しかも、さまざまな国から選手が集まっているので、選手個人のエゴだけでなく、時には国と国とのメンツをかけて感情がぶつかり合うので、何か常に殺伐としていた。

Uインターにはしっかりとした「格」があった。その格によって、選手それぞれ別の役割がある。ただし、その格は自分の実力次第で上げていくこともできるし、下がってしまうこともある。大相撲の「番付」に似ているかもしれない。

それに対して格がない世界がリングス。言い方は悪いけれど、“サル山”に似ていた。サル山にもボス猿から下っ端まで序列が存在するけれど、それは誰かが決めたわけではなく、力でわからせて、力で従わせなきゃいけない世界。

だからボクはUインターでは最後の頃、何度かメインイベントを任されていたので、エースの髙田さんが横綱だとしたら、大関ぐらいの番付になっていたと思う。でも、Uインター時代の番付はリングスでは通用しない。自分がその地位になるためには、力で従わせなければいけない。そう痛感させられたのが、リングス移籍第2戦目のウィリー・ピータース戦(96年7月16日、大阪府立体育会館)だった。

取材・文=堀江ガンツ

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田村潔司=たむら・きよし|1969年12月17日生まれ、岡山県出身。1988年に第2次UWFに入団。翌年の鈴木実(現・みのる)戦でデビュー。その後UWFインターナショナルに移籍し、95年にはK-1のリングに上がり、パトリック・スミスと対戦。96年にはリングスに移籍し、02年にはPRIDEに参戦するなど、総合格闘技で活躍した「孤高の天才」。現在は新団体GLEATのエクゼクティブディレクターを務めている。

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