西武ライオンズの清原和博を知ってるか?【第4回】

PL学園の主砲として甲子園を沸かせた清原和博。1985年の運命のドラフトによって盟友桑田真澄は巨人に入団、憧れのチームに裏切られ忸怩たる思いを抱えながらも、18歳の清原は西武ライオンズ入りを決断。彼はここで野球キャリアの中でも最も華々しい活躍をすることになる。そんな彼がひとりの野球人として輝いていた西武ライオンズ時代約10年間を描いた『キヨハラに会いたくて 限りなく透明に近いライオンズブルー』(7月21日発売/白夜書房)よりお届けする。

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1985年②
運命のドラフト。そして悲劇の結末へ

雑誌『セブンティーン』85年8月20日号には「桑田くんvs清原くん どっちもステキどっちもスゴイ」なんてこちらも緊張感皆無の特集記事が組まれている。チェッカーズ、吉川晃司、男闘呼組と並び、すてきボーイズとして取り上げられるキラキラのアイドル球児。「試験に出る桑田くん清原くん」アンケートコーナーで、清原くんは野球をはじめたキッカケを「小3のとき。なんとなくリトルのテスト受けたらパス。あれで人生きまった」と真面目に答える一方で、趣味は「音楽鑑賞。それも、明菜がいっちゃん好きやね。歌うまいもん」、好きなTV番組は「歌番組かな。ザ・ベストテンとかね。明菜の出てるんやったら、みんな見る」なんつってサービス精神満点でジャイアンツ愛より中森明菜愛をひたすら強調。その一方で、桑田くんが大切にしているものは「去年の夏、知り合いからもろた王さんのサイン色紙。毎日ながめてまぁ~す」とさりげなく数カ月後の喧噪を予感させる、衝撃のガチンコ発言をしているのも興味深い。

予兆は確かにあった。強行指名は「なんでや!」じゃなく「本当にやりやがった!」である。決して巨人が桑田を何の前触れもなく、想定外の1位指名をしたわけではないのだ。現に『PLの桑田、清原を狙う巨人スカウトのマル秘作戦』(『週刊サンケイ』85年8月8日号)というような記事はかなり早い段階で週刊誌上を賑わせていた。PL学園の野球部は厳しいセレクションを通過したものだけ入部が許される狭き門だが、この春は地元の少年野球チーム「ナニワ・ボーイズ」から3名もの選手が送り込まれている。立浪和義(87年中日ドラフト1位)、橋本清(87年巨人ドラフト1位)、そしてキャッチャーのI君だ。このI君は巨人現役スカウト部次長の息子だった。もちろんIスカウトは陰でコソコソしないと否定するが、実際にKKコンビの家族ともPL野球部の父兄として堂々と接触できるわけだ。

リアルとフェイクの狭間で繰り広げられる情報戦。清原は希望球団から指名されなかった保険として、日本生命の就職を内定させている。桑田の父親も、マスコミに対し「プロに行く可能性がまったくないとは言えない」と匂わせ、可能性のある球団として「巨人」を挙げた。きな臭い雰囲気の中、『清原は巨人、桑田は早稲田しか日本球界を救う道はない』(『週刊現代』85年11月9日号)では、某巨人事情通という立ち位置不明な謎の人物のコメントを紹介。「清原がクジで当たらなかった場合の桑田指名もありえます。桑田は巨人ファンで、『巨人なら行きたい』と知人にもらしたこともあるんですから」と語り、「ドラフト会議は11月20日。早大特別選抜の受付が7日から15日までで、試験は24日。だから、もし桑田が早大に申し込みだけして、ドラフトで巨人に指名され、巨人入りを表明して、11月24日の試験を受けないという手も、やろうと思えばできるわけだ」とまで詳細を書いている。この手法、まさに桑田がドラフト後に取った行動とほぼ同じ。野球は筋書きのないドラマって、いやいやその筋書きめっちゃバレてるから……。

しかも、9月にはドラフトについて聞かれた王監督が「清原君は素晴らしい素材だけれど少し時間がかかる。できれば即戦力のピッチャーが欲しい」とつい口をすべらせたことを受け、スポーツ新聞各紙が“巨人、長富浩志(NTT関東)獲得へ”と大々的に報じていた。それを見て怒り焦った読売は、系列紙の報知新聞9月24日付一面に「清原だ!王ラブコール」とかまさせた。

さすがに清原サイドもこれらの流れには危機感を覚えたのだろう。11月14日、PL学園へ挨拶に訪れた巨人Iスカウト部次長と清原一家は1時間半にも及ぶ会談を行ったが、最後まで「必ず1位に」という確約はもらえなかった。半信半疑の清原の母が「巨人はドラフト当日に1位指名選手を誰にするか決定するというのは本当なのでしょうか?」と尋ねると、「それが巨人の方針ですから」と返されたという。海千山千の大人たちの前で、18歳の清原和博はあまりに無邪気で無防備だった。もう少しお互いのことを利用できるほどタフだったら、また違った展開があっただろう。「昨日は阪神のスカウトからこう褒められた。今日はどこのスカウトと会う」なんて休み時間に教室のクラスメートたちに逐一報告し盛り上がる等身大のキヨマー。その様子を横目で見ていたのが、最後まで自分の本心を誰にも明かさず、たったひとりの仮面舞踏会に臨んだ桑田である。

キャラクターや性格含めあまりに対照的で、同時代に同級生として出会ったふたりの規格外の天才。皮肉なことに彼らはともに夢を見て同じハッピーエンドを迎えるには、野球の才能に恵まれすぎた。その栄光に彩られた高校生活の悲劇の結末は、突然ではなく、必然だったのかもしれない。85年11月20日午後11時13分、東京・九段下のホテルグランドパレス会場に、司会のパンチョ伊東の声が鳴り響いた。これが、終わりの始まりか──。

第一回選択希望選手、読売、桑田真澄、17歳投手、PL学園高校。

…つづく

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