田村潔司「解析UWF」第13回…リングスのエースの座を継承するに至るまで

1999年2月21日、前田日明は自身の引退試合で“人類最強の男”カレリンと対戦する
写真提供=平工幸雄
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田村潔司にとって前田日明とは、UWFのスタイルを作りし偉大なる先人であり、新弟子時代からの絶対的な先輩であり、そしてリング上では互いに競い合った強敵であり……。リングスのエースの座を継承するに至るまで、多くの葛藤と因縁を抱えた二人によって生まれるドラマの数々を振り返る。

1996年6月にUWFインターナショナルからリングスに移籍して、ボクは新生UWFの3派分裂以来、約5年半ぶりに前田日明さんと同じ団体の所属になった。

前田さんは、ボクが88年にいちばん下っ端の新弟子として新生UWFに入門したときの絶対的なトップ。年齢も10歳違って、UWF時代は前田さんも基本的に毎日道場に来ていたから、その時の精神的なプレッシャーはいまだに忘れられない。

UWF道場の練習は、まず朝10時から若手と練習生だけが基礎練をみっちりやって、そこから外へ走りに行くのだけれど、ランニングから帰ってきて駐車場に前田さんや髙田さんの車が停まってるのが見えると、道場に入るのがもう怖かった。ただでさえピリピリしているUWFの道場の緊張感が、前田さんや髙田さんがいらっしゃると何倍にもなる感覚があったのだ。

新弟子は、前田さんらに指示されたとおりの練習をしなきゃいけないのだけど、その練習というのは、スクワットにしても腕立てにしても縄跳びにしても、基本的に限界までやらされる。その「限界」も自分の限界ではなく前田さんが判断する限界だから、「もうダメです」となってからも延々終わらない。たとえば「スクワット3000回」なんていうのはとんでもない苦行だけど、「3000」という終わりが見えていれば、そこに向かってなんとか歯を食いしばってがんばることができる。でも、「限界まで」というのは「あと何回やれば終わる」という精神的な支えがないから本当につらい。毎日、何をやらされるか恐怖でしかなかった。

それから月日が経ち、ボクがリングス所属選手になってからも前田さんとの先輩後輩の関係は変わらないけど、もう自分も新弟子や下っ端の若手ではないし、リングスでトップを獲るために契約したプロ選手なので、同じ現役選手でもあった前田さんに対するトラウマみたいなものを払拭する必要があった。

ただ、リングスでの前田さんは、UWF時代みたいには道場に顔を出していなかったので、選手にとってはちょっと遠い存在。言い方が合っているかわからないけど「リングスの天皇陛下」というか、なかなかお会いする機会も少なかったので、精神的に前田さんを乗り超えるためには、実際にリング上で試合をして乗り超える必要があった。

そういう意味で、1997年3月26日に東京ベイ・NKホールで行った前田さんとのリングスでの初対決は、自分にとってすごく大きな意味を持つ試合だったのだ。

NKの前田日明戦は新エースへの最終試験

ボクと前田さんには新生UWF時代に因縁がある。89年10月30日の札幌中島体育センターでの試合。前田さんと対戦予定だった船木誠勝さんが腕を骨折されて欠場になったため、急きょ、ボクが前田さんと対戦することとなった。

当時、前田さんはUWFの大エースで、ボクはまだデビュー半年たらずの新人。相撲で言えば横綱と三段目が試合するようなもので、本来ならありえないマッチメイク。格も実力も違いすぎるけど、ここでただ何もできずに終わってしまったら、死ぬような思いで新弟子時代を耐え抜いてデビューした意味がない。ボクは恐怖を振り払って、思いきり前田さんの顔面を張り、思いきり蹴っていったけれど、ど新人に顔面を張られた前田さんの怒りを買ったのか、首相撲でつかまえられて強烈なヒザ蹴りを何発も顔面に入れられて2分19秒、レフェリーストップでTKO負け。

記憶が戻ったのはベッドの上で、結局、眼窩底骨折の重傷で手術が必要になり、デビュー半年たらずで401日(1年1カ月)の負傷欠場を強いられた。まさにプロの洗礼。

ボクがようやく復帰した翌月には新生UWFが解散となり前田さんとは別れることとなったので、リングスに入団したからには、その空白の約6年間で自分がどれだけ成長したのかを絶対に見せなきゃいけないと思っていた。

そして決まったNKホールでの前田日明戦。若手時代に1年間を棒に振るケガを負わされた経験があり、Uインターで5年間がんばったあと、さらに1年近くリングスで結果を出してから前田さんと再び対峙することになったので、ボク自身相当な意気込みで臨んだ試合だった。また当時はリングスのファンも新生UWF時代から観ていてくれた人たちが多く、ボクと前田さんのこれまでの経緯を踏まえた上で試合を観てくれたと思うので、大きな前田コールと田村コールがせめぎ合う、まるで新生UWF全盛期の熱気を肌で感じながら試合したのを憶えている。

通常、ボクは試合の序盤は牽制のローキックやミドルキックからスタートすることが多いのだけれど、この試合に関しては、最初から全力でミドルキックをバンバン蹴っていった。新生UWFの札幌大会で完膚無きまでにやられてから7年くらい溜めていた思い、さらには怨念や執念をすべてミドルキックに込めて120パーセントの力で蹴っていった。

ローキックでもなく、ハイキックでもなく、ミドルキックに、全ての気持ちを込めて蹴ることに意味があった。ボクの成長を前田さんに肌で感じてほしかった。

ミドルキックは、一発で試合が終わる可能性がハイキックやローキックよりも低いとはいえ、へんに肘を立ててガードしようとしたりすると、自分の肘が壊れたりするし、前腕一本で受けようとすると前腕が折れたりもする。でも、こっちは腕が折れても関係ない。前田さんが受け損なって腕が折れたのならそれまで。そんな思いで全力で蹴っていったのだけど、やっぱり前田さんは受け方がうまかった。へんなガードの仕方をせずに、あの大きな体全体で蹴りを受けとめて、どんどん前に出てきたのはさすがだと思った。

本当の意味での真っ向勝負。寝技の攻防も含めてお互いの気持ちも出た試合になって、やっていてすごく楽しかった。リングス時代の前田さんはヒザのケガもあってUWF時代のような試合がなかなかできなくなっていたと思うけれど、僭越ながら自分なら前田さんを蘇らせることができるという思いもあったから、結果は前田さんの勝利で悔しさはあるものの会場がものすごく盛り上がった満足感と達成感もすごくあった。

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取材・文=堀江ガンツ

田村潔司たむら きよし|1969年12月17日生まれ、岡山県出身。1988年に第2次UWFに入団。翌年の鈴木実(現・みのる)戦でデビュー。その後UWFインターナショナルに移籍し、95年にはK-1のリングに上がり、パトリック・スミスと対戦。96年にはリングスに移籍し、02年にはPRIDEに参戦するなど、総合格闘技で活躍した「孤高の天才」。現在は新団体GLEATのエクゼクティブディレクターを務めている。

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