西武ライオンズの清原和博を知ってるか?【第8回】

PL学園の主砲として甲子園を沸かせた清原和博。1985年の運命のドラフトによって盟友桑田真澄は巨人に入団、憧れのチームに裏切られ忸怩たる思いを抱えながらも、18歳の清原は西武ライオンズ入りを決断。彼はここで野球キャリアの中でも最も華々しい活躍をすることになる。そんな彼がひとりの野球人として輝いていた西武ライオンズ時代約10年間を描いた『キヨハラに会いたくて 限りなく透明に近いライオンズブルー』(7月21日発売/白夜書房)よりお届けする。

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1986年②
PL4年生

球界の大御所たちが続々と清原詣でに集結。いわゆるひとつの興奮状態のミスターは「スタンス、球のとらえ方、大きなフォロースルーと長距離打者の特性を備えている」なんてベタ褒め。フリー打撃では左翼スタンド後方のフェンスを超える140メートル弾をかっ飛ばすも、実戦練習の紅白戦では打率.235。オープン戦では打率.220、3打点。本塁打はともに0だった。それでも本人は「オープン戦は公式戦ほど観客が入らないので、ちよっとガッカリしました。甲子園の時みたいにいっぱい入ってると盛り上がっていいんですけどね」と余裕のコメント。本田美奈子が歌う「1986年のマリリン」がヒットする世の中で、1986年のキヨマーが口にする新人らしからぬユーモアとエモさ溢れるパンチの効いたコメントは連日見出しを飾った。

「ベース一周何秒で周れるか?」と聞かれると、「ボクはホームラン打つからゆっくりでいいんです」と冗談で切り返し、初任給では「両親や祖父にはプレゼントを。姉や弟には小遣い送るつもりですが、まだ安月給(推定40万円)ですから、1カ月1人ずつにします。将来は岸和田の実家を建て直し、自分の家を作りたいと思う」と泣かせる台詞をさらりと口にする。かと思えば、東京駅で買った弁当を新幹線ホームと列車の隙間に落っことして「アチャー」なんつって大げさに悲しんでみせる。真っ直ぐで素直な反面まだ学生気分が抜けず隙だらけの天真爛漫な18歳。まさに球界の青いスタスィオンだ。

4月4日の開幕戦は20年ぶりの高卒ルーキースタメンはならずも、翌5日の南海第2戦で6回の守備から途中出場。7回のプロ初打席はニャンコ投法の藤本修二から四球を選び、9回二死の2打席目は初球のストレートを豪快に左中間芝生席へプロ初アーチを叩き込む。夕陽に照らされオレンジがかった西武球場で走りながらジャンプして喜びを爆発させ、さらに両手を広げバンザイ。試合には負けたが異例のヒーローインタビューが行われ、「去年の夏の甲子園からずっと半年以上なかったんで、まあ何回まわっても気持ちいいですね」と若獅子は安心したような笑みを浮かべた。翌日も6回からファーストに入り、2打数2安打1打点。しかし、だ。いきなりの一発とマルチ安打の活躍で当然相手からも警戒される。4月8日の日本ハム戦は憧れの後楽園球場で「8番一塁」の初スタメンも、連続三振で途中交代。清原は厳しい内角攻めと慣れないナイター照明に苦しみ、20打席連続ノーヒットとプロの洗礼を受ける。昼にイースタン・リーグの2軍戦に調整出場してから、夜は1軍の試合に駆けつけ、入団時95 kgあった体重は90 kgを割りズボンはブカブカ。待ちに待った第2号は4月30日の南海戦、この左翼スタンドへの一発がナイターでの初安打でもあった。

5月に入ると背番号3は勢いを取り戻し、月間打率3割越え。22日の阪急戦では大エース山田久志からバックスクリーンへ弾丸5号アーチをかっ飛ばして、賞品の50万円相当の電化製品に「ウチの親父、電気屋なんですけどね」とニッコリ。名球会サブマリンに「ありゃ甘いストレートだよ。シンカーに見えるようじゃ、清原はまだボールが見えてないんだよ」なんて負け惜しみを口にさせるゴールデンルーキーは、27日の近鉄戦でプロ初の5番を任され二塁打を放った。しかも、17日の近鉄戦で自打球を左足親指に当て亀裂骨折をしていたが、「こんなんケガのうちに入らへん」と何食わぬ顔で試合に出続けての快進撃である。ノリにノッて私生活でもフルスイング。スキャンダルさえ時代のエクスタシー。6月には春の仙台遠征で知り合った年上美女との早朝デートを写真週刊誌『フォーカス』に激写されるが、実はその遠征で東北福祉大に通う友人、のちの大魔神こと佐々木主浩と遊んで門限を破ったことも問題視され、給料1カ月分の罰金に加えシーズン中の外出禁止を言い渡されていた。さすがのキヨマーも森監督から「お前の行動はチーム全員に迷惑をかけた」と叱られ、背番号3の大きな背中を丸め先輩たち一人ひとりに「すいませんでした」と頭を下げてまわったという。

もともと所沢の寮の門限は夜10時。車もまだ持っていないから都心まで遊びに行くこともできない。あぁやっちまった……。だが、結果的にそれが再びキヨマーを野球漬けの生活に戻すことになる。もはや、バットを振るしかやることがない。プロの投手に対応しようと一打席ごとの配球を手帳に記録してスコアラーのデータと照合。試合後は合宿所や遠征先のホテルで、別のノートにその日対戦した投手のクセや打ち損じた球種を書き込む。眠れない夜は、もちろん素振りだ。偶然にも外出禁止がもたらした終わらない部活動のような日々。あの高校野球史上最強スラッガーを生んだ熱闘甲子園は、所沢に舞台を移し、まだ続いていたのだ。

そう、18歳の清原和博が生きるその野球中心の日常は、「西武1年目」というより、まるで「PL4年生」のようでもあった。

…つづく

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