R-指定(Creepy Nuts)『Rの異常な愛情 番外編』久しぶりのバトルで感じたヒップホップイズム

R-指定(Creepy Nuts)『Rの異常な愛情 番外編』
撮影/河西遼

日本一のフリースタイル巧者かつ、Creepy Nutsのワンマンツアー真っ最中のR-指定。今回は、ツアー序盤の振り返りや、自らの楽曲についての所感、話題をかっさらったT-Pablowとのエキシビションマッチ、まだまだ止まらない『ほん呪』などのホラー話と、振り幅大きめでお届けします。

昔の曲の“のびしろ”

――ワンマンツアー「Creepy Nuts ONE MAN TOUR 『アンサンブル・プレイ』」開催真っ最中のCreepy Nutsですが、今回のツアーの手応えはどうですか?

R-指定 手応えはちゃんとありますね。今回は新しいアルバムの曲が際立つようなセットリストにしていて、割とそういう構成は初めてに近いんですよね。そしてライブの回数を重ねる中でテコ入れしたり、セットリストを調整しているので、それがいい感じにハマっていってると思いますね。ノリとかビート感の部分に関して言えば、結構アゲ系の楽曲が増えて。そういうのもあって、ライブの幅がより広がっている気がしますね。それから、今回のアルバム自体がフィクション中心になっているので、“フロント9番”のように、しっかり空気感を作れる場所があったりするし、ライブの展開やストーリーも作りやすいというのもありますね。前作がかなり「自分たちの範囲」で作られた、自分の内面の吐露みたいな部分の強いアルバムだったし、それもあって全体的にシリアスな空気で進んでいくのが多かった分、今回は割とくだけたというか、結構ヘラヘラした内容のMCから楽曲に行けたりとかも全然できるなと。

――たしかに、先日のイベント「THE LIVE 2022~オレらのRoots はあくまでラジオだとは言っ・て・お・き・たい ぜ! ~」でも“友人A”を披露されていましたが、ライブで聴くと最後のワードプレイがよりバカバカしく伝わってくるなと(笑)。

R-指定 フィクションだからこそ、俺の中でも意外とバカバカしい曲なんですけど、「“友人A”がグサッと来た」って人もおるのが面白いですね。

――でも確かに、あれを我が事として考えたら、なかなかグサッと来る人の気持ちもわかる。若いリスナー――実際の年齢は関係ないかもしれないけど、それこそ30を超えちゃえば、あんなの過去の話というか、学生ぐらいの話として聴けるけど、学生でいまあの境遇の人にとっては、グサッと来るだろうね。

R-指定 リアルタイムでああいう状況の人も絶対おるわけで。曲をパフォーマンスするこちらとしては、フィクションのほうが、シリアスにならずに気負いなく歌ったり演奏できたりする部分もあるんですけど、フィクションとして市井の人々をテーマにしてるからこそ、そして「俺の話」じゃないからこそ、逆にグサッと来る人もおるのかなと思いますね。よりラッパーの話じゃない曲が多いから、感情移入できる余地があるから、聴く人によってはそれが自分の生活に当てはまってしまった場合には、もしかしたらその空気がより伝導しやすいというか。

――「フィールする」人の半径がより広がった部分もあるだろうし。

R-指定 “友人A”のように、今のCreepy Nutsはもうちょっと違うフェーズに入ってるからな、と思ってお蔵にしてた内容がフィクションとして書けたように、昔作ったある種のルサンチマンとかを全開にしてた楽曲も、ここに来てセットリストに入れられたりもしてますね。「もう歌えへんか」ってここ2、3回のツアーでも歌ってないやつが、例えば“助演男優賞”とかが、何のてらいもなく入れられるようにもなっていて。

――確かに、“助演男優賞”は下剋上の歌でもあるから、「フェスのメイン」になった今と、作られた当時は全く感覚や置かれてる状況が違うよね。でも逆にいえばそこまで到達したからこそ、完全に過去の曲として歌えるようになったというか。

R-指定 それはありますね。フィクションの曲が増えたからこそ、「お前らが今それ言ったら嫌味やで」っていう現象がなくなったというか。

――『アンサンブル・プレイ』の楽曲が、過去の曲と今を繋いでくれる役目を果たしていると。

R-指定 そうですね。だから「全部ドキュメントでやろう」って決めてた頃よりも、そういう意味では風通しが良くなった気がしますね。

――その意味では、今回のツアーのラストとなる12月8日はさいたまスーパーアリーナ、その前に行われる11月3日の「Creepy Nuts Major Debut 5th Anniversary Live“2017~2022”in日本武道館」は武道館と、ワンマンの規模も“助演男優賞”とは比べ物にならない大きさで。

R-指定 ほんまですね。ツアーファイナルのSSAもそうですけど、デビュー5周年という個人的なメモリアルを、武道館というデカい場所でやらしてもらえるようになってんなぁっていう。よく考えたらもっとこぢんまりした場所でもいいじゃないですか。

――確かに「俺たちの5周年を武道館で祝ってくれ!」ということだからね(笑)。

R-指定 傍から見たら「お前らの周年なんて知らんがな!」ってとこですよ(笑)。

――でも、それが5年間の蓄積ということだよね。

R-指定 ありがたいですね。だから、武道館はより懐かしい楽曲群が主役になっていくのかなとは思います……けど、曲を思い出す作業がまた大変なんですよね~。ファンクラブイベントを今年2回ぐらいやって、そこでも過去曲をやったんですけど、それがもう大変だったんですよ。それこそ『アンサンブル・プレイ』を作ってる最中だったから、新しい歌詞を考えてるタイミングでもあったし、もっと根本的には、昔の曲を作ったときと今とは、発声とかベロ、口の形も変わってきてるんですよね。だから思い出すのが大変という側面に加えて、「いまの身体で歌う」という大変さもあるんですよね。だからFCイベントのときは一番個人でリハスタに入ったかもしれないですね。「これはまずいぞ」と思って。

――それはおもしろい。同じ自分の曲であっても、「体幹」が違うというか。歌っててもそこまで感触が違うんだ。

R-指定 息継ぎのタイミングも違っていれば、リズムのとり方も変わってるから、自分で昔の曲をやりながら、「違うやろ」「こうきたらこういうフロウの展開させないと」みたいなことも思ってしまうんですよ(笑)。でも「昔から意外と良くできてるな」「良いこと書いてるやん」みたいなのもありました。リリックとか、やろうとしてることはおおむね良いぞ、みたいな(笑)。ただちょっとアウトプットの仕方が未熟なのかなとか思いながら。

――根本的な不変性と、スキルの成長を同時に感じるというか。

R-指定 初期の俺のほうがもっと日本語を聴き取りやすく発声しようとしてたんやなって思いましたね。音のハマり的にはもっと言語を崩したり、言葉を詰め込んでいいようなところを、あえて聴き取りやすいように、日本語で伝わりやすい発音でやってるんやろなっていう発見がありましたね。でも初期は初期で、多分それが正解やったと思うんですよ。だけど俺らの曲を聴いてくれる人が増えてきて、聴く人の耳が肥えてきたり、シーン自体も変化していく中で、前作の“顔役”みたいにボソボソと発声してもみんなが聴き取れるぐらい、それが違和感を覚えないぐらい「ラップ耳」になってきたというか。だから自分のスキルとしても、音のハマりを優先して言語を崩すことに抵抗がなくなってきたんかなって思いますね。たぶん昔はライブやったら、一曲目でまず100%聴き取らせるために、昔のほうがもっとベタッと日本語を乗せてるなっていうのはありますね。

取材·文/高木“JET”晋一郎

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R-指定|大阪府出身のラッパー。高1から梅田サイファーに通いバトルやライブ活動を開始。2012年からMCバトル全国大会UMBで3連覇を成し遂げ、『フリースタイルダンジョン』の初代モンスター、そして2代目ラスボスを務める。現在はDJ松永とCreepy Nutsとして活動しながら、バラエティ番組やテレビドラマなど多方面でも活躍中。

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