吉田豪新連載「what’s 豪ing on」Vol.2 向井秀徳

吉田豪新連載第二回のゲストは向井秀徳
撮影/河西遼

同志はいない

――客観的に見るとナンバーガールは売れた側みたいな印象があるんですけど、向井さんの認識だとそうではないってことですか?

向井秀徳 うん、まあ売れる売れないっていったらね、どれくらいで売れるっていうのがあるのか、金額的にいったらね、もしくは枚数でいったらね、そりゃミリオンセラーとか。

――音楽雑誌の表紙にはなるし、影響は与えたけれども、わかりやすいシングルヒットみたいなのはなかったぐらいの位置というか。

向井秀徳 ね。だけど自分の立ち位置とか、日本の音楽シーンというのがあるのであれば、自分のポジションがどこらへんにあるのかとか、そういうのは昔からあんまり興味がないですね。100万枚売れたいという欲望もあんまりなかったですね、いまもないですね。

――もともと「売れたいのか?」って大人に聞かれて答えに困ったような人だったわけですもんね。その考えがそもそもなかった。

向井秀徳 ただ、「何言ってんだ、だから売れないんだ」ということを言われるんですけども。昔からそういう度を超した……わかりやすく100万枚と言いましょうか、売れるということは、何か作り上げられたものがあるんだろうな、そういうプロジェクトとしてね。100万枚売るために何かが操作されてるっていうふうに思ってしまうんですね。

――つまり、それはいろんな企業というか、代理店なりと組んで見せ方から何からキチンと考えたプロジェクトなんだろうなと思う?

向井秀徳 それが行なわれてるのが大半ではないかと私は思ってますけどね。まあ、そうでないパターンもいっぱいあるでしょうけど。

――そもそも、向井さんはデビューしてもうふつうに食べられてた状態だったんですか?

向井秀徳 東京に出てきて他にアルバイトとかしたことないですね。ただし余裕を持った生活ではなかったですよ。もちろん、いまでもべつに余裕持ったことではないですけどね。

――風の噂で向井さん稼いでる説みたいなものが流れてきて、「この音楽性で稼げてるのってすげえ!」って素直に思ったんですよ。

向井秀徳 ハハハハハ! 稼げてるって、それこそ世田谷のいいところに2億円単位の家を建てましたとか、そういうのはないですね。稼げてるってなんだろうね。生活はできてる。

――基本はそこなんでしょうね。もともと売れたいって欲がないから、好きなことをしてふつうに生きていければそれでOKという。

向井秀徳 それはありがたいことですよね。ライブ活動とか音楽活動で得た利益を株式に転用して、土地に転用して、もしくは焼肉屋でも出してみっかみたいな、そういう考えは一切ないですね。持ちかけられたこともない。

――まったく興味なさそうに見えますから。

向井秀徳 ハハハハハハ! そうだろうな。そういう意味ではガツガツしてないと思います。

――女性以外の反響とか、たとえばオードリーの若林(正恭)さんがくすぶってたときに家でこっそりZAZEN BOYSを聴いてたみたいな話をインタビューでしてましたけど、そういうのはモチベーションになったりします?

向井秀徳 そうですね。私の知らぬところで人のどこかに私の音楽が関わってるという事実はすごく喜びですよ。自分が放ったものが遠いとこまで行って誰かが反応してくれてたっていうね、これは単純な喜びでね。誰それがっていうのはよくわからないですけどね。

――立川志らく師匠が「ランジャタイと楽屋でザゼンボーイズの話をした。志らく、向井秀徳、ランジャタイは同志である事が分かった」とかTwitterでつぶやいてましたけど。

向井秀徳 同志ではないと思うけどな。誰と?

――ランジャタイってわかります?

向井秀徳 あんまりわからない。

――『M-1グランプリ』に出たりしてた最近売れてる芸人さんで、志らく師匠が推してて、楽屋で話してたら向こうも向井さんのことが好きだった、みたいな話だと思います。

向井秀徳 志らくさんとランジャタイさんの趣味が合ったってことじゃないですか? 私はそんな趣味わからないです、だって知らないんだから。志らく師匠に同志と言われても私は特にそうは思わない。ツルむのは嫌だから、同志はいない。

――「人とつながりたい」とかよく公言してますけど、でもツルむのは嫌いなんですね。

向井秀徳 嫌っていうか苦手なんですよね。嫌いっていうことではなくて苦手ですね。

――それで思ったのが、17年に出た『三栖一明』って本があったじゃないですか、デザイナーの三栖一明(向井の宅録時代の音源やフライヤー、現在に至る向井秀徳関連作品のアートワークを手掛ける。屋号はeyepop)さんの名前をタイトルにした謎の自伝みたいなヤツ。学生時代からの同級生でバンドのアートワークも担当してきて、ずっと一緒に仕事をしてきた同志的な存在かと思ったら、「あれ?」って感じで。

向井秀徳 ハハハハハハ! ね。たしかにつき合いは長いです、高校のときから。ただ『まんが道』的な、お互い夢を持って一緒に東京に行こうぜみたいな関係性ではないわけです。

――こういうタイトルつけるぐらいだからもっと濃密な関係だと思ったんですよ。そしたら巻末の三栖さんのインタビューで全部ひっくり返されて、すごい本だと思いました。

向井秀徳 まあ、彼はデザイナーとして看板があるんだけども、三栖一明自体が自発的に仕事をしようという活力があまりないんですね。

――向井さんに巻き込まれて上京して。

向井秀徳 ……という言い方が正しいと思うんだけど。だから責任感ではないんですけど、もっと奮発すればすごく……私は彼の作るものが好きだから、もっと仕事になって彼がいきいきとした生き方できるんじゃねえか、そういう意味でこっちからお膳立てするっつうかプロモーションという意味合いがあの本には含まれてます。もともとそれをするために彼の作品集みたいなのを作ろうっていう目的だったんですよね。するとなぜかずっと私のヒストリーになっていかざるを得なかった、それでああいう変わった形になりましたね。

――巻末のインタビューを読んで「え?」と思ったりしなかったですか? 向井さんの発言に引いた的な記述が多数ありましたよね。

向井秀徳 いや特にそれは思わないですね。彼が私としゃべったりしてることではあるので、「こいつこんなこと考えてたんだ!」っていうのはあんまりないですね。まあ何か壁があるような関係ではないです。そういうつき合いがある人は私にとっては少ないですけど。

――ボクが一番衝撃を受けたのが、まだ十代の向井さんが「チンコの皮を切ろうと思う」って三栖さんたちに相談したって話が、そのままちゃんと載ってたじゃないですか。

向井秀徳 うん、あれ忘れてたね。っちゅうかそんな話を全部ぶち込むんであれば、もっといろんなことあったなって思い出せたけどね。でも、そんなおもしろいかなと思って。

――すごくいい話でしたよ。

向井秀徳 たしかにね、まだそういう体験もないくせにですよ、でも変に意識してしまって。皮かむりというのは異性から嫌われるんじゃねえか、と。何も経験したこともないのに勝手に思い込んだわけで、そのくせ自意識があるからそういうとこ気にするわけで。というところで真剣に話したんじゃないですかね。

――いい話なのが、「チンコのことよりも人間の中身が重要だから」みたいなことを言われたら、「人間の中身には自信がある、それは問題ない」って、当時まだ何もやってないような人間が言い放ったっていう(笑)。

向井秀徳 ハハハハハハ! その風景が見えたでしょ、私が20歳前後で、どんだけ自意識過剰野郎だったかっていう。私が唯一の友達と会話してる風景が見えると思うんですよね。

――まだまだ続くインタビューは、発売中の「BUBKA3月号」で!

取材・文/吉田豪

向井秀徳|1973年生まれ。佐賀県出身。95年にNUMBER GIRLを結成し、99年に『透明少女』でメジャーデビュー。2002年に解散後、ZAZEN BOYSを結成し、現在までにアルバム5枚をリリース。19年にはNUMBER GIRLを再結成し、22年12月の神奈川・ぴあアリーナでのラストライブをもって再解散。向井秀徳アコースティック&エレクトリックや、LEO今井とともにKIMONOSとしても活動中。

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