吉田豪「What’s 豪ing on」Vol.9 坂本慎太郎、ブレイクしたくない 好きな人に届いているいまがベスト

「What’s 豪ing on」第九回のゲストは坂本慎太郎
撮影/河西遼

吉田豪によるミュージシャンインタビュー連載。第九回のゲストは坂本慎太郎。ゆらゆら帝国解散後、コンスタントなソロ活動で国内外で多大な支持を集める彼のこれまでをじっくりと聞いた。

逃げられなかった中学時代

――何度か会ってるんですけど、ちゃんと仕事するのは初めてと言っていいんですよね。

坂本慎太郎 はい。前、大橋裕之(※漫画家。代表作は『シティライツ』。2020年公開の原作アニメ映画『音楽』では、坂本が主役の声を務めた)くんのイベントでお会いしましたよね。あれも10年以上前?

――2011年に新宿ロフトでやった大喜利イベントですね。「ソロのデビューアルバム作って初めて人前に出るのが今日だ」って言ってたのは覚えてます。ゆらゆら帝国(※ボーカル・ギターの坂本、亀川千代(ベース)、柴田一郎(ドラムス)の3人組(解散時)。2010年3月31日をもって解散した)解散後、初めてのライブハウスが大喜利(笑)。

坂本慎太郎 そうです。あれ10年以上前ですか。吉田さんの本は買ってます。あと『豪の部屋』も知ってる人が出てるときは観てます。

――えぇっ!? ありがたいです。リクエストも来てますよ、「坂本さんをSHOWROOMの『豪の部屋』に出してくれ!」って。

坂本慎太郎 ああ、俺はいいです(笑)。

――即答(笑)。これは、いままでほぼ一緒に仕事したことないような人から、ちゃんと話を聞くのがテーマの連載です。坂本さんもミュージシャンのインタビューには思うところがある的なことを過去に言ってましたね。

坂本慎太郎 ……言ってましたっけ?

――新譜発売時のインタビューが、大きな声では言えないけど全然おもしろくないって。

坂本慎太郎 ああ、ミュージシャンのインタビューがつまんないっていうのは言ったかな。

――なので、これはそういうパブ感のないインタビューにしたいと思ってます。まず、ボクは最初91年にライブを観てるんですよ。

坂本慎太郎 91年ですか!

――ボクの友達がTHE RAREっていうGSとガレージの中間みたいなバンドやってて、彼が「すごい対バン決まった!」みたいに言ってたんで遊びに行って。下北沢の屋根裏(※15年に閉店した、数々のミュージシャンに愛されたライブハウス)でTHE GOD(※元the原爆オナニーズの藤岡良次雄と、元OXYDOLLの中村達也、NONらによるバンド)とマリア観音(※木幡東介を中心に87年に結成された「ハードコアプログレッシブ歌謡ロック」バンド)との対バンで、そこに存在も知らなかったゆらゆら帝国もいて。

坂本慎太郎 へぇ~っ、マリア観音とTHE GODが一緒にやってましたか。覚えてないです。

――大丈夫です、覚えてそうな生い立ちから探り探り聞いていくので。子供の頃の話で、すごい共感したエピソードがあるんですよ。ボクも自宅で過ごすのが大好きで、野球を強制的にやらされるのが大嫌いだったんです。

坂本慎太郎 そうですね、昔は野球でしたもんね。俺は引っ越しが多くて、場所によっては地区の野球チームに強制的に入らなくちゃいけないっていうのがあって、キツかったですね。

――野球チームにも入ってたんですか?

坂本慎太郎 そうです。リトルリーグの、もうちょっと緩いヤツみたいなのがあって。

――大阪で生まれて、横浜、川崎、小金井、川崎、下関、福岡、松本と引っ越したんですよね。

坂本慎太郎 そうですね。でも子供だったんで、生まれたときからそうだから、こういうもんなのかなと思ってやってきた感じですかね。

――川崎のときは楽しかったみたいだけど。

坂本慎太郎 川崎といっても宮崎台と宮前平ってまだ新興住宅地で、社宅だったんで子供がいっぱいいて、全部転校生ばっかりで。まあ楽しくやってましたね。それが下関に引っ越したら転校生がぜんぜん来ないから目立っちゃって。で、ちょっと屈折して暗くなりました。

――本当は野球よりも家で漫画を読んだりしたいのに、みたいな時期だったんですか?

坂本慎太郎 そのときは野球っていうかゲームセンター。学校でゲームセンター禁止だったんですけど近所に悪い子がいてゲームセンターに誘うんですよ。で、そのときはインベーダーが出たばかりで1ゲーム100円だったじゃないですか。だけど5円玉を逆から入れてガーンとやるとできるっていうんで、5円玉に両替する係みたいなのやらされてたんですよ。店とか銀行に行って、上にちょっと怖そうな人もいるし、そこに行きたくなくて。

――インベーダーの頃だと、まだ不良のたまり場だった時代のゲームセンターですよね。

坂本慎太郎 そうなんですよ。親にもバレたくないし。だからそういう人に見つからないようにコソコソ隠れて。仲いい友達がひとりいたんですけど、友達の家まで最短距離で行くとそいつらに会っちゃうんで、グルッと30分ぐらいかけて大回りして逆から遊びに行く、みたいな。

――ボクも不良連中からのゲームセンターの誘いが嫌でしょうがなかったです。こっちは家でテレビ見たり漫画読んだりしたいのに。

坂本慎太郎 そうなんですよ。だからそれがトラウマになっちゃって、そのあとゲームとか一切やってないんですよね、ファミコンとかも。

――その後、ちょっとメンタルが危うかったときにテトリスやってたぐらいですかね。

坂本慎太郎 ああ、そうだ(笑)。よく知ってますね。ファミコンも一切やってないですね。

――そのトラウマのせいで。

坂本慎太郎 そうそう。あと、下関に引っ越したときにスケボーとローラースケートと金属バット、あとテレビゲームのテニスとスカッシュだけできるヤツを持ってたんですよ。しかも川崎から来たんだけどほぼ東京みたいなもんだから、「東京からすげえ坊ちゃんが来た!」みたいな感じで、みんなが俺と遊ぼうとして、それが苦痛で逃げ回ってた。

――ダハハハハ!「スケボーやらせろ」「おまえんちでゲームやろうぜ」みたいな、めんどくさい連中が集まってきて。で、その次の福岡は楽しかったって言ってましたね。

坂本慎太郎 福岡は楽しかったですね。ギターを始めたり、音楽の趣味とかそういうのが出てきたから。あと都会だし。楽しかったなあ。

――意外だったのが、「部活のバスケットボールは嫌々やってた」ってことですけど、ちゃんと部活もやるタイプだったんですね。

坂本慎太郎 下関で中学に入学して、なんか知らないけどバスケ部に入ったんですね。で、バッシュ(バスケットシューズ)買うじゃないですか。1学期で福岡の中学に転校したんですけど、バッシュがもったいないからそのままバスケ部にとりあえず入ったんですけど、下関の中学は福岡のバスケの強豪校と同じ名前だったんですよ。それで体操服にそこの学校の名前が書いてあるから、すごい中学のバスケ部が来たって注目が集まっちゃって、先輩とかみんなの。でもぜんぜんダメだから、それでみんなにガッカリされちゃって。

――ダハハハハ!それでもやめなかった。

坂本慎太郎 けっこう練習厳しかったんで、部員いっぱいるんですけど、どんどんやめてって。同じクラスに後に部長になるヤツがいて、そいつが怖くてやめらんなかったんですよ。強制的に練習に行かされるし、やめた瞬間、クラスで何されるかわかんないんで、それに怯えてひたすら時間が過ぎるの待ってました。

――その頃、漫画も描いてたわけですよね。

坂本慎太郎 そうそう、ホントはそっちのほうがやりたくて、全部の時間をギターとか漫画に注ぎ込みたかったんですけど、逃げられず。ぜんぜんうまくもないのになぜか最後までいて。最後、市大会で負けてみんな悔しくて泣いてるのに俺だけニヤニヤしちゃって、うれしくて。県大会に進まなくてよかったって。

――バスケは補欠だったんですか?

坂本慎太郎 ずっと補欠ですね。

――で、梶原一騎原作の『プロレススーパースター列伝』(※80~83年に『週刊少年サンデー』にて連載。当時人気だった実在のプロレスラーを題材に選んで描かれた)を真似た漫画を描いていた。

坂本慎太郎 そうそうそう(笑)。

――当時プロレス好きだったんですか?

坂本慎太郎 プロレス好きでした。でも、みんな好きでしたよね。テレビでやってたじゃないですか。みんな好きだったし、休み時間とかみんなプロレスごっこして遊んでましたよね。

――そういうこともちゃんとやってた。

坂本慎太郎 やってましたね。覆面とかもちゃんとミシンで作って。あと泊まりがけで友達の家でプロレス大会みたいなのやってました。

――ゆらゆら帝国でベースだった亀川千代さんがプオタだったのは知ってましたけどね。

坂本慎太郎 そうですね、亀川くんはもっと本格的でそのあとも継続してたぶんプロレス好きだったけど、僕は中学のときだけですね。

――漫画を投稿してたっていうのも意外だったんですけど、いつぐらいの話なんですか?

坂本慎太郎 中学で『ジャンプ』とかにですね。

――それは、ふつうに作品を描いて?

坂本慎太郎 ちゃんとGペンとかケント紙とか買って、漫画の描き方入門みたいなの読んでちゃんとペン入れとかして、作品を描いて。ナントカ賞みたいなのあったじゃないですか。

――手塚賞&赤塚賞とか!

坂本慎太郎 そういうヤツに何回か出しましたけど。ぜんぜんダメでしたけどね。

――名前も出ないレベル。

坂本慎太郎 そうそうそう。

――そのレベルでガチでやってたんですね。

坂本慎太郎 ガチってほどでもないですけどね。2回ぐらい応募したと思うけど、そのあとすぐギターのほうにいっちゃったから。

――ボクも漫画家になりたくて応募しようと思ったけど、扉描いただけで終わってます。

坂本慎太郎 ああ、最後まで描くのがたいへんですよね。あとはふつうの紙に鉛筆で連載漫画描いて、それはクラスでけっこう人気でした。

取材・文/吉田豪

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