西武ライオンズの清原和博を知ってるか?【第7回】

PL学園の主砲として甲子園を沸かせた清原和博。1985年の運命のドラフトによって盟友桑田真澄は巨人に入団、憧れのチームに裏切られ忸怩たる思いを抱えながらも、18歳の清原は西武ライオンズ入りを決断。彼はここで野球キャリアの中でも最も華々しい活躍をすることになる。そんな彼がひとりの野球人として輝いていた西武ライオンズ時代約10年間を描いた『キヨハラに会いたくて 限りなく透明に近いライオンズブルー』(7月21日発売/白夜書房)よりお届けする。

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1986年①
清原フィーバー

高校3年の冬、学生服姿のまま秋葉原へエロビデオを買いに行ったことがある。

深夜番組『トゥナイト2』で山本晋也カントクが紹介していた、菅原ちえ監督作品『初めてのkiss』がどうしても欲しくなったのだ。学校も受験勉強もサボり、お年玉の残りを握りしめ西武線のライオンズカラーの電車に飛び乗った。ほとんどビョーキ。大人になった今思い返すと何かが決定的に間違っている気もするが、いつの時代も少年たちは青春でしくじり、人生を学ぶのである。無事ブツを手に入れ、池袋から発着する帰りのレッドアローに揺られながら、思ったわけだ。俺、昔のキヨマーとはえらい違いだなと。

1985年12月13日、西武入団発表から一夜明け西武球場に足を運んだ18歳の清原和博はあの有名な伝説を残す。マスコミ撮影用に学生服姿で右バッターボックスに入り、ティー打撃を披露すると、軽く振ったスイングで左中間スタンドにホームランを打ち込んだのだ。しかも足もとは革靴のままである。ひとりの新人選手の球場施設見学にテレビ局7社含む約80人の報道陣が同行し、西武鉄道本社から清水信人取締役がわざわざ駆けつけるビッグイベント。清原は注目の新人選手であると同時に、巨大な西武グループの広告塔を託されようとしていた。つまり、普通の18歳がいかにオカンにバレずにエロ本を自室に隠すか悩む時期に、この男はバブル前夜の欲望渦巻く大人社会に放り込まれたわけだ。

岸和田の自宅で迎えた86年(昭和61年)正月は、年賀状が前年の150枚から一気に1500枚へ急増。翌2日は奈良県にある母の実家近くの大神神社に初詣。仕立ておろしの和服を着たキヨマーは女性ファンに気さくにサイン……とアイドル雑誌『週刊明星』で行動が詳細にリポートされ、次ページでは大相撲の新大関・北尾が年末の紅白歌合戦の審査員を務め、「吉川晃司のギターのぶちかましには、たまげたぜ!」なんてのちのレスラー転向後のマイクのしょっぱさを予感させるズンドココメントを残している。ちなみに北尾の隣に座っていたのは85年日本一の阪神・吉田義男監督だった。

テレビをつけたら巨人時々阪神みたいな昭和プロ野球人気のリアル。だから、清原は圧倒的に新しかった。ひとりでパ・リーグの露出と注目度を激増させたのだから。1月4日にファミコンソフト『ツインビー』が発売された年明け以降も、各メディアは徹底的にPL学園のツインビーことKKコンビを追う。とは言ってもドラフト騒動以降、ほとんどマスコミ不信に陥った桑田が極力目立たないよう行動したのとは対照的に、西武の新背番号3はとことんオープンだった。ドラマ『毎度おさわがせします』で一躍トップアイドルになった15歳の中山美穂がグラビアを飾る『週刊現代』では、1月10日のキヨマー入寮の様子を大阪から分刻みで密着取材。「5:20 父の運転する自家用車で親子三人が出発」とか「5:32 国鉄・久米田駅で41分発の区間急行を待つ」なんて、それかなり迷惑なんじゃ……と突っ込まずにはいられない図々しさで、羽田着の日航102便機内の様子まで撮影している。まさにメディアでイギリスのダイアナ妃と人気を二分するジャパンのキヨマー現象。多くのマスコミを引き連れ、西武球場の第2球場横にある合宿所に着くと、六畳強の十号室に、少年は薄っぺらのボストンバッグを置いた。

「部屋は少し狭い感じ。それとPLの寮では相部屋だったので、ちょっと寂しい」

身長186cmの巨体に似合わぬ寂しがりやの一面をのぞかせつつ、「目標は、高卒で新人王をとった豊田泰光さんの本塁打27本を超える30本と新人王。それと王監督の868本を破ることです」ときっぱり。今思えば高校生が、シーズン前に「1年目から30本塁打」を堂々と宣言していた自信に驚かされる。

「こちら“西武警察”です」

合宿所での新人の仕事は電話番。携帯電話もない時代、18時から22時まではキヨマーのテレフォンショッキングだ。ファンの女の子からの直電だと分かると、ドラマ『西部警察』にかけたしょーもないギャグをかます。一方で2月2日の登校日に備え、1月31日から大阪へ帰りたいと訴えるも、「何を甘いことを言っている。2月1日はキャンプイン。プロ野球人の正月だ。ちゃんと正月を迎えてから行け」と森祇晶監督から初めて説教を食らってしまう。『週刊ベースボール』のキャンプ序盤通信簿には「バットを持たせれば、学年トップですが、もう少し、日常生活での集中力が欲しい。担当の森先生も、まだ甘えがあると指摘しています」なんてイジられる。ちなみに桑田は女性ファンに取り囲まれると「砂ぼこりが立つから」と露骨に顔をしかめ、巨人合宿所の入居前に自室の壁を塗り替え、カーペットを敷かせ、目が悪くなるからとテレビは置かないゴーイングマイウェイぶりを発揮する。どうせよく書かれないのだから、俺は俺の道を行く。すでにメディアでは「明るいアイドル清原とミステリアスなヒール桑田」という報道が定着していた。

…つづく

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