「ばってん少女隊」クリエイティブディレクター杉本陽里子氏が語るアイドルソング

ディレクター/プロデューサー杉本陽里子氏

楽曲派という言葉が死語になる前に伝えることがある!ということで始まった当連載。今回は、アイドルグループ「ばってん少女隊」のクリエイティブディレクターを務める杉本陽里子が登場。サウンド、MV、キャスティングなど、全てにおいてアイドルの枠にとらわれない試みを続ける彼女。ばってん少女隊の最新アルバム『九祭』を紐解きながら、アイドルソングに対する新機軸を語ってもらった。

はじまりはスカコア

――ばってん少女隊の『九祭』はメジャーを離れてから2作目のアルバムになるわけですが、初期のスカ路線からどのような経緯で現在の音楽性に変わっていったのでしょうか。

杉本陽里子 当初はビクターとスターダストさんと話していくなかで、スカコアのアイドルはいないよね、ということだったり、当時のマネージャーさんがそっちの音楽を大好きだったりしたんです。その後、別の方がマネージャーになられたということだったり、時代的にもBiSHさんとかももクロさんとか、ロックなサウンドで女の子が頑張って歌うというのが当たり前にあって、いいものがたくさん出たなと感じていたというのもありました。

――近年はかなり多いですよね。

杉本陽里子 そんななかで、ばっしょーの子たちはステージでは元気にやっているんですけど、決してパワフルなタイプではないんですね。品があるというか、博多美人じゃないですけど、奥ゆかしさがあって、でも芯は強いという。彼女たちのそういう美しさを音楽に昇華できないかなと常々思っていたんです。ロック系で2枚アルバムを作ったあと、3枚目の時に別のディレクターさんも入ってきて、一緒に作っていったんですね。彼がアイドルソングの職業作家さんと繋がりが深い方なので、『ふぁん』はそういう曲も多くなりました。それはそれでいいものを作れたと思っているんですけど、ばってん少女隊じゃなくてもできることかもしれないなというのがありまして。

――なるほど。

杉本陽里子 メンバーの年齢も徐々に上がっていくなかで、個性がもっと生きるような音楽ってなんだろうなと考えた時に、デビュー当時から曲を作っていただいている渡邊忍さんと話し合ったんです。ばっしょーは『おっしょい!』という曲でデビューして、それは山笠の掛け声の「おっしょい」からとっているんですけど、それが祭りのクライマックスに向かうにつれて「おいさ」に変わっていくんですね。そのストーリーでやれないかなというのはずっと温めていたネタなんです。そのネタと、忍さんも「アイドルだから元気!」みたいな雰囲気ではなく、本人たちに合った曲が作りたいということで、いただいたのが『OiSa』でした。それで180度変わりましたね。クリエイターから見て、ばってん少女隊に合う歌はこれなんだという気づきをいただいて。

――このアプローチもありなんだと。

杉本陽里子 あの曲は声もエフェクティヴなんですけど、本人たちのキャラクターや美しさも出ていて。オケに生声をぶつけるという音像ではなく、リアリティがちょっとないような「声の儚さ」というのが音のひとつのコンセプトとしてできあがりました。それに合うサウンドで作るとなると、自ずと今イケてるクリエイターさんと言いますか、サブスクでたくさん聴かれているような音楽がマッチしていくね、ということで。もちろんPerfumeさんがやってきたことも見ていたので、それに連なる新しい形をばってんで提案できるかもしれないな、という思いもありました。

――ただ良い曲を作るのではなく、メンバーが歌う必然性をより求めた時に『OiSa』がハマり、そこが出発点になっていったと。

杉本陽里子 渡邊忍さんはばっしょープロジェクトで重要な役割を担っていただいているんですけど、ロックをずっとやってこられている彼がそれに気づいて、デジタルなサウンドを作ったというのがすごく衝撃で。この方向転換にすごくワクワクしました。そう来るなら次はこういう方向だよね、と燃えたところもあります。

様式美を壊す

――こうした劇的な変化に対する内外のリアクションはどうだったのでしょうか?

杉本陽里子 前作の『ふぁん』のリードをどうするかという会議があって、『OiSa』しかないんじゃないかって話をしたんですけど、もちろん「え?」という反応はみなさんからありました。ほかにいい曲があるなかで、この奇抜な方向でいくんですか、という(笑)。メンバーの歌割りも瀬田さくらちゃんの分量が多くて、均等じゃないんですね。全員に歌っていただいて、瀬田さんの声が音楽を届ける柱になるということでこの形になったんですけど、それも画期的で。挑戦としては面白いなと。

――結果、『OiSa』は広く聴かれる曲になりました。ある程度できていた型を変えるのは勇気がいることだと思うんです。それこそ偏りのある歌割りに対する反応も様々あるでしょうし、ライブでどうやるかを考えないといけなかったりもしますし。『九祭』は、アルバム全体でガラリとシフトチェンジしたことが本当にすごいと思いました。

杉本陽里子 もちろん私だけの采配じゃなくて、テクノロジーやマーケティングに長けているチームの人たちとやれているんですけど、そこからのフィードバックもありました。アイドルとしての差別化を考えた時にも、九州のアイデンティティと、お祭りというコンテンツは海外の人から見たらクールで憧れがあるものなので、そのお祭りの世界観のなかにいるということをブレずにやれたら勝てるんじゃないかと。メンバーも吸収が早い子たちなので、『OiSa』の時に、真顔でやってもこんなに反応がもらえるんだと気づいて、いいパフォーマンスをしてくれるようになりました。今回、難しい曲もいっぱいあったと思うんですけど、しっかりやりこなしてくれたかなと思いました。

――インタビューの続きは発売中の「BUBKA1月号」で!

取材・文/南波一海

杉本陽里子=すぎもと・よりこ|2005年ビクターエンタテインメント入社。A&Rや制作ディレクターとしてサカナクション、木村カエラ、レキシ、家入レオ、他多数のアーティストを担当。2019年にクリエイティブプロダクション株式会社ondoを設立。メジャーインディーズを問わず音楽やビジュアルの制作、プロデュースを担当している。また、音楽とカルチャーMIXのパーティー「CULPOOL」(カルプール)も主催。

ばってん少女隊|スターダストプロモーション所属、九州を拠点に活動する6人組アイドルグループ。4th ALBUM『九祭』が現在発売中。

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