伊藤俊介(オズワルド)、どうして承認欲求のバケモノになったのか…『一旦書かせて頂きます』刊行インタビュー

「BUBKA6月号」に登場している伊藤俊介(オズワルド)
写真=©関純一

ブブカがゲキ推しする“読んでほしい本”、その著者にインタビューする当企画。第54回は、『一旦書かせて頂きます』の著者であるオズワルド・伊藤俊介氏が登場。漫才で見せるワードセンスとは違う、文章ならではのクスクス笑える世界。自身を「承認欲求のバケモノ」と語る、その背景と頭の中を覗いてみた――。

「副社長」としての責任

――ダ・ヴィンチWebで連載していたエッセイをまとめた本書ですが、もともとはnoteで書かれていたんですよね?

伊藤俊介 コロナ禍になって、仕事がことごとくなくなりまして。生きるためにというか、目先のお金欲しさにnoteで書き始め、100円で売っていました。あのときの知名度を考えると割と売れまして、そうこうするうちにダ・ヴィンチニュース(現:ダ・ヴィンチWeb)さんからお声がけいただき、連載するようになりました。

――オズワルドは、2019年に『M-1グランプリ』(以下、『M-1』)で初の決勝進出を果たします。翌年は忙しくなるだろうと思っていた矢先に、コロナ禍に見舞われた、と。

伊藤俊介 肩ぶん回して待っていたんですけど、仕事は全然増えなかったですね。2020年の後半になって、ご飯は食べられるようになりましたけど、そんなに甘くはなかった。

――ところが結果的に、そのときに書いていた文章がこうして形になりました。

伊藤俊介 僕はこれまで本というものをまったく読んでこなかったんですよ。駒澤大学文学部国文学科を卒業しているので、文章が得意――のように思われるけど、まったくそんなことはない。国文学なんて言ったもん勝ちみたいなところがあるし、「意味のある大学生活を送ったのか?」と聞かれたら、はっきり言ってNOなんで。駒澤大学は良い大学だと思うんですけど、僕は活かしきれなかったタイプ。ですから、文章も独学です。素人が賢そうに書いてもしょうがないなと思ったので、しゃべり言葉のまま自由に書かせていただきました。手に取った方にも、自由に読んでもらえたらうれしいですね。

――『一旦書かせて頂きます』には、家族のこと、芸人になってからのこと、『M-1』のことなどなど、伊藤さんの半生を顧みる側面も持っています。自身の過去をさらけ出してもいます。

伊藤俊介 書いているときは、それこそ周りに誰もいない状況ですし、周りの反応も分からないので、羞恥心みたいなものは一切なくて。それが文章の良いところであり、こっぱずかしいところでもあるというか。ただ、一冊にまとまって改めて読み直してみると、若干の気恥ずかしさはこみ上げてきますね。今回、書き下ろしパートということで、相方である畠中(悠)について書いてくださいと編集者さんからオーダーされたんですけど、この部分に関してだけは読み返してもいないです(笑)。

――伊藤さんは、畠中さんのことを「社長」と称していますが、どうして「社長」と?

伊藤俊介 うちらは、畠中のコンビなんです。二人でネタを作っていますけど、最初のゼロイチというか、テーマを出すのは畠中。「株式会社オズワルド」があるとしたら、畠中が社長で、僕が副社長。マネージャーが会長です。3年ほどかけて、ようやく1冊の本になったのはすごくうれしいんですけど、なんて言ったらいいんだろう……四の五の言っている場合じゃねぇな、と。言い方がすごく難しいんですけど、ちょっと本格的に売れないとKADOKAWAさんに申し訳が立たない。最初に本が出ると聞いたときは、頭の中が95%くらい印税のことでいっぱいだったんですけど、今はぜんぜんそんな余裕がない。ホント、申し訳ない!

――切羽詰まりすぎですって!(笑)  本書を読むと、伊藤さんの責任感の強さみたいなものを感じ取れるパートも少なくないのですが、本の売れ行きにそんなに責任を感じているとは。

伊藤俊介 責任感がある人は、俺のように締め切り守らなかったり、時間にルーズなわけが……ッ。

――行動とマインドは、また別ですから。

伊藤俊介 マインドなんて言ったもん勝ちですから! 本当にいろいろな方に動いていただいているので、申し訳が立つくらいには売れてもらわないと申し訳ない!

今しないと一生しない

――まだ発売されたばかりですから。話を戻しましょう。伊藤さんは、大学4年生のときに、NSC東京17期生として入学します。高校卒業時、あるいは大学入学時なら分かるのですが、なぜ大学4年生のときに?

伊藤俊介 僕は、人生を計画的に生きられたことって1回もないんですよ。NSCに入ろうと決めたのも、大学3年生の2月くらい。もちろん、以前から芸人へのあこがれはありましたけど、自分がなるものだとはまったく思えなかった。漠然とした夢ですよね。ただ、大学4年生になれば就活が始まる。当時の僕は、教員志望だったので教育実習もある。大学を卒業してしまうと、「芸人になろう」なんておそらくもう考えないだろうなと思った。リアルに考えたとき、僕は自分自身が一般社会に“出ていいわけなさそう”ということが分かっていたし、社会に出たところで、どうにもならないだろうと感じていた。だったら、先が見えないけど、 心の底からあこがれていたものになろうと思って、芸人にならしてもらいました。

――社会に対して不適合であると自覚していた、と。

伊藤俊介 とにかく、だらだらと生きちゃうんですよ。たとえば、旅行にしてもまるで計画なんか立てられない。朝まで友だちと飲んで、「熱海でも行くか」なんて盛り上がって、そのまま熱海へ行ってしまう。「明後日行こう!」なんて言ったところで、絶対に熱海に行かないじゃないですか。そのときの熱量とか気分を重視しないと動かなくなっちゃう。だから、コロナ禍でルームシェアを始めたのも、シンプルに「楽しそうだな」って思い立ったから。あのときって、外に飲みに行けなかったので、だったら家でみんなで飲めばいいと思った。「いまルームシェアをしなかったらもう一生しないな」と思ったんですよね。

――ある意味、行動力のバケモノですよ(笑)。

伊藤俊介 ソファーでくつろいでいると、風呂に入るタイミングって逃しません? ところが、ぼーっとしていたら、突然、「今だ!」って思い立つ瞬間がある。そこ逃したらもう風呂には入れない。自分の中で湧き上がったものを、すぐそのままアウトプットしようって思えちゃう。“思えちゃう”という言い方が正しいかもしれないですね。行動のみならず発言に関しても同じで、「言っちゃえ、言っちゃえ」のまま生きてきちゃいすぎた。そこはちょっと反省ポイントでもあるかもしれない(笑)。

――ですが、『一旦書かせて頂きます』を読むと、構成しかり、ものすごくしっかりされています。

伊藤俊介 書き出しの3~4行は頭を悩ませましたけど、構成に関しては特に意識したつもりはなく、気の向くまま書いた感じなんですよね。こういう言い方すると、「天才なんです」って言っているような感じがするかもしれないけど、決してそういうわけではなく。ネタと違ってオチを意識しなくていいのも、文章ならではの魅力だと書いていて感じました。ただ! やっぱり売れなきゃ話にならない!  「うまい」「面白い」って言っていただけるのは、めちゃくちゃうれしいんですけど、これが売れないと次はないですから。何だったら印税なんていらな……いや、印税はいりますけど、とにかくたくさんの人に読んでほしいんです。ですので、BUBKAさんよろしくお願いします。

――肩の荷が重すぎます(笑)。責任感とは違う言葉を使うのなら、伊藤さんの考え方はとても現実的ですよね?

伊藤俊介 それはそうかもしれないです。俯瞰して自分の力量はわかっているつもりなので、僕だけの力でこの本をたくさん売ることが、なかなか不可能に思えてきているというか。たとえば、相談なんかにも言えることで、僕が何か悩みがあって誰かに相談すると、抽象的な答えが返ってくることがすごく多かった記憶があるんですよ。気持ちとかマインドの問題じゃなくて、物理的にどうしたらいいか聞きたいんだけど、「大丈夫だよ」って言われるみたいな。欲しいのはそれじゃねぇんだけどなって。そういう考え方を現実的という言葉で表現できるかは分からないけど、おそらくつながっているだろうとは思います。

――なるほど。「僕らの漫才って面白いですか?」と聞いたとき、「大丈夫だよ。君たちは面白い。信じて好きなことをやった方がいい」と答えられても、なんかモヤモヤしてしまうと。

伊藤俊介 自分たちが面白いと思ってやるのが一番いいんだよ……って言われたところで、「それはもうわかってんのさ」って思うわけです。そういうことではなくて、物理的に、具体的にアドバイスがほしいんですよね。めちゃくちゃ腹が減っているときに、「この音楽、マジでいいから聴いてみて」って勧められたら、一時は気が紛れるかもしれない。だけど、 俺の腹はぜんぜん減ったままなわけですよ。欲しい言葉って、「これ食べなよ」とか具体的な提案であって、そこがズレると引っかかっちゃう。ちゃんと理解したいんですよね。面倒臭いなって自分でも思いますけど、僕の人生はそういう考え方が反映されているのかもしれないです。なんというか、一回引っかかると進めない。だから、自分自身の発言にも違和感を覚えることがあるくらい。質問に対してストレートに答えられていないなと思うときが、結構ある。それっぽいことを言っただけで、その場を、目の前のこの人をだまくらかしただけだなっていうときがあります(笑)。

取材・文=我妻弘崇

――まだまだ終わらないインタビューの続きは発売中の「BUBKA6月号」で

伊藤俊介=いとうしゅんすけ|1989年8月8日生まれ、千葉県出身。お笑いコンビ・オズワルドのツッコミ担当。NSC東京17期生。2014年11月、畠中悠とオズワルドを結成。M-1グランプリ2019、2020、2022ファイナリスト、同2021準優勝。第42回ABCお笑いグランプリ優勝。本書が初の著書となる。

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