永野『オルタナティブ』“何も起きない普通”にこそリアルがある

「BOOK RETURN」vol.53はピン芸人の永野

ブブカがゲキ推しする“読んでほしい本”、その著者にインタビューする当企画。第53回は、『オルタナティブ』の著者・永野氏が登場。「自分がいかに外道なのか思い知った」。自身の内面と修羅のごとく向き合った本作は、“何も起きない普通”にこそリアルがあることを教えてくれる。きちんとダメ――。芸人・永野は唯一無二だ。

カートよりボノ

――当コーナー初となる2度目の登場になります。まさに、既成概念を打ち破る“オルタナティブ”です。

永野 マジですか!? いや~、なんかありがたいです。前回のインタビューをあらためて読み直すと、「コーンなんか聴いても、全然楽しくないんですよ」とかヒドいこと言ってますね、俺(笑)。

――今回も、身もふたもない永野論を聞かせていただければと思いますので、よろしくお願い致します!本作は、音楽だけでなく映画や人物など、永野さんに寄り添ってくれたもの、支えてくれたものなどを総称して“オルタナティブ”と位置付け、思いを吐露しています。

永野 『僕はロックなんか聴いてきた』の発売後すぐくらいかな、次は音楽以外のものも絡めて本にしたいですね、みたいな話をリットーミュージックさんから言われてたんですよ。それで去年の8月にその打ち合わせをしたんです。でも、実際に始めてみると、もう一冊作ることが重くなっちゃって、「できるかなぁ」って疑心暗鬼になっちゃって。とりあえず打ち合わせをしようということで、新宿にある事故物件みたいなレンタルスペースで、リットーミュージックさんと話をしたんですよね。

――事故物件みたいなレンタルスペース。のっけから不穏すぎます。

永野 狭いし、換気もまったく行き届いていないような場所でした。『僕はロックなんか聴いてきた』のときって、初めての経験だからお互いにものすごく盛り上がって、話が超弾んだんですよ。そのプレッシャーもあったんでしょうね、「前回を超えよう」みたいなワケの分からない気持ちを抱えたまま、自分に影響を与えたアーティストや映画の話をしてみたんですけど、案の定、エンジョイできなくて。しかも、事故物件みたいな場所だから、みんな逃げられない。「電話してきます」とかウソでも逃げられたらいいのに、そういうことが一切できない場所だった。そういう中で、ひたすらマイケル・チミノの魅力とかを語っていたんですけど、居合わせた20代の女の子のマネージャーもすごい退屈そうで。ウソがつけない、誰も悪くない空間だったから、僕も申し訳なくなっちゃって。それでも、「まあまあいい話ができた」とか無理やり自分を納得させて帰ったんですね。ところが、その話をまとめたライターさんの書き起こしがめちゃくちゃ面白かった。それを見て、「これはきちんとやらないとダメだ」って気合いが入った。何にも生まれなかった会議ってあるじゃないですか?不毛でしかない会議だったはずなのに、こんなに面白くまとめてくれて責任感が芽生えたんですよね。

――『オルタナティブ』で永野さんが指摘している、『稲村ジェーン』のようなマジカルな無の世界があった、と。

永野 そうなんですよ、ただパドリングしているだけの世界。でも、火が点いちゃって、それでグワーッて書き始めて。書いていくと、リットーさんには申し訳ないんだけど、せっかくだから、「このとき自分はこう思っていた」みたいな自叙伝のように書いてやろうと思ったんです。こんな機会、もうないかもしれないから。しかも、そうやって過去の自分と向き合っていると、よく分からないんだけどローな気持ちにもなっちゃって。

――実は、この本を読んでいると、時折、太宰治を読んでいるような錯覚を覚えるんですよ。「恥の多い生涯を送って来ました」ではないですが、永野さんの内面的な吐露が強烈で、ぐいぐい引き込まれます。

永野 自分でも、引き出しの奥に入れていたことをどんどん思い出しちゃって、そうするとマイケル・チミノが面白いとかで収まんないですよね。思い出があふれてきちゃって。ただ、最近のYouTubeとか見ていると、紆余曲折あった人とか、犯罪歴がある人とか、そういう人生を歩んでいる人を取材していたりするから、自分の人生を書いてみたところで、いたって普通だろう、ただの自己満足になるんじゃないのかって不安もあったんです。それで、後輩のダーヨシくんに見せて、「どう思う?」って聞いたら、「内部がすごく荒れてる、別の激しさがあると思います」って言ってくれて。他の人からも私小説っぽくて面白かったと言われてホッとしたところはありましたね。

――まさに私小説的な雰囲気が充満しています。次作は、太宰が故郷を訪ねて、自らの過去と向き合う紀行的自叙伝『津軽』……その永野さんバージョンが読みたくなります(笑)。

永野 それイイっすね!この本を書いていて、中高生時代の俺を、あのまま死なせたくないって思ったんですよ(笑)。僕の故郷は宮崎県宮崎市なんですけど、一番共感できない田舎だと思う。県内でも都会だし、周りには悲しいほどの畑もない。それでいて、実家はハードコアじゃなくて、普通の家庭。だから、『オルタナティブ』でも書きましたけど、高校時代は宮崎の田舎から来るような人間をすごい下に見ていた。俺はイオンにもすぐ行けるんだぜ、みたいな。執筆中に、久しぶりに実家に帰る機会があったんですけど、親の声が聞こえてくる実家の二階で原稿を推敲していたら、「東京にいるときの自分ってかっこつけてるな」とか自問自答しちゃって。中学生のとき以来通っていない道とか見つけて、ウォークマン……俺、いまだにウォークマンで聴いているんですけど、U2の“Stuck in a Moment You Can’t Get Out Of”を聴きながら散歩したんですよ。そしたら、嘘を解除した気持ちで歩いているから、めっちゃ染み渡ってきて。貧困街でも何でもない、いたって普通の老人が夜でも散歩できるような道だからこそ正直になれたんでしょうね。さんざん、ニルヴァーナが!とか、レッチリが!とか言ってましたけど、本当の気持ちはU2だったんだなって、弱音とも本音とも取れることを書いちゃいました。

――「あなたが共感するバンドは?」と胸ぐらを掴まれて聞かれたら、「(ニルヴァナではなく)U2です」と答える――という、前作をひっくり返すような赤裸々な告白は、嘘を解除した気持ちになれたからこそだったんですね。

永野 ブレザーとか着ているお坊ちゃんお嬢ちゃん中学校からホントにどうしようもない不良の高校に行って、いじめられるかと思ったらいじめられるわけでもなく。普通ならBOØWYとかセックス・ピストルズとかすんなり入ってきたと思うんですよ。自分には、その資格がないと思ってましたから。昔、斎藤工君から、「永野さんってハイな人の中のローを見つける」って指摘されたことがあるんですけど、その通りだなって思います。ラッセンのネタも、忍者になった浜崎あゆみのネタもそうですもん。

――まだまだ終わらないインタビューの続きは発売中の「BUBKA5月号」で!

取材・文=我妻弘崇

永野=ながの|1995年に活動開始。「孤高のカルト芸人」と呼ばれ、長きにわたってライブシーンで活躍。2014年、「ゴッホより普通にラッセンが好き」のフレーズで知られるネタでブレイク。昨今は、芸能界きってのロックフリークに加え、洋画にも造詣が深く、自身のYouTubeチャンネルで繰り広げるカルチャートークも人気を博している。

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