関根勤インタビュー、“なぜ関根勤は嫌われないのか”“なぜ褒めるのが上手なのか”

関根勤

書籍『関根勤の嫌われない法則』を上梓した関根勤にインタビューを実施。なぜ関根勤は嫌われないのか、なぜ褒めるのが上手なのか――。誰もが敬愛を込めて“関根さん”と呼びたくなる、その唯一無二のキャラクターは、いかにして涵養されたのか!?

土壇場のカマキリ

――『関根勤の嫌われない法則』は、関根さんの芸能生活50年史を振り返る内容でもあります。

関根勤 気が付いたら、50年生になっちゃった感じですね(笑)。あらためて自分の芸能生活を振り返ると、人に恵まれた芸能人生だなって、つくづく思います。結局、運が良かったんでしょうね。子どもの頃から面白い友だちに恵まれ、アマチュア時代も僕の稚拙な芸をゲラゲラと笑って喜んでくれる仲間がいた。『きんざNOW!!』の「素人コメディアン道場」で5週連続で勝ち抜いたときも、審査員があこがれのコント55号の所属事務所だった浅井企画の浅井良二前社長が務めていたんですね。「目が輝いている!」って僕のことを評価してくれて、スカウトされる形で所属することになったくらい。その2年後に、同じく「素人コメディアン道場」でチャンピオンになった小堺一機君が浅井企画に入ってきた。ザ・ハンダースをはじめ、他のチャンピオンはナベプロに入っているのに、小堺君だけ浅井企画にやって来た。ホント、巡り合わせ。彼とは歳が2歳しか違わなくて、通ってきたテレビ番組も一緒。お笑い好きで、お互い不良じゃなかった(笑)。

――やんちゃなタイプじゃなかったと(笑)。

関根勤 しかも、時を同じくして関西からは、明石家さんまという怪物が出てくる。僕ね、さんまさんと同期なんですよ。僕が21歳のときだったかな。たまたま大阪で、さんまさんが出演しているライブを観たことがあるんだけど、「京子ちゃんシリーズ」というハイセンスなネタをやっていたの。周りのおじさんやおばさんは分からないからポカーンとしているんだけど、僕だけ面白くて腹抱えて笑っていた。6年後くらいにさんまさんにそのことを告げると、「あれ、関根さんだったの!?」って言われて。なんで分かるんですか? って聞いたら、「笑っているのが一人だけだったからよう覚えてる」って。僕も先鋭的なものが好きだったから、さんまさんと意気投合しちゃって、以来、ずっと今まで仲良くさせてもらっている。さんまさんは、モーツァルトなんですよ。天才肌で子どもの頃からなんでもできちゃう。対して、僕はサリエリ。王様に仕える作曲家に過ぎなくて、モーツァルトの譜面を見て、震えてしまうタイプ(笑)。若い頃に、萩本欽一さんやさんまさんのような天才を真横で見れたのは、運がいいとしか言いようがないよね。

――それだけすごい人たちを目の当たりにすると、若手時代に悩んだり、辞めたいと思ったことはないのでしょうか?

関根勤 落ち込むことはあったけど、事務所がバンバン仕事を入れていくから、とにかくバッターボックスに立つしかなかった。オーディションで披露したジャイアント馬場さんのものまねが死ぬほどウケて、『噂のチャンネル』の出演を勝ち取るんだけど、5週くらいしたら「馬場は飽きた」って言われて、馬場禁止令。結局、ぜんぜんウケなくて一年でクビになって。人によっては、売れなくてどうしようとか、もうすぐ30歳だから区切りをつけないとなんて考えるのかもしれないけど、僕の場合は、場外に落ちた僕を事務所が強引にリングへ戻す。それでまたボッコボコにされるわけ(笑)。そういう中で、なんとか生き残らなきゃいけないと思って考えたのが、『カックラキン大放送!!』の「カマキリ拳法」だったんだよね。

――ひらめきのきっかけは、『県警VS組織暴力』の川谷拓三さんなんですよね?

関根勤 そうなの! 僕、ものすごいショックを受けたんですよ。映画の冒頭で、川谷さんが刑事役の菅原文太さんにものすごい勢いでイキって、罵詈雑言を繰り返す。ところがさ、その数分後には文太さんにボコボコに殴られて、全裸で土下座しているの(笑)。その落差というかギャップに衝撃を受けて、何か自分の芸として落とし込めかなって考えた。それでカマキリを思い付いたんだけど、『カックラキン大放送!!』はアドリブ厳禁で、台本に書かれたことしかやっちゃダメ。リハーサルで試すと絶対に直されるから、本番の一発勝負に賭けたんですよ。

――番組演出を務めていた白井荘也さんは、めちゃくちゃアドリブに厳しい人だったとお聞きします(笑)。

関根勤 こっちも頭がおかしくなっていたんだろうね(笑)。だから、クビになる覚悟でやったんですよ。アドリブで、「俺のカマキリ拳法に勝てるかな」ってすごんだら、共演者の野口五郎さんの目が点になっちゃって。ものすごいテンションで、「カーマーキーリー!」ってポーズを取って、台本の流れに戻るようにお腹を出したの。お腹を殴られて、僕が倒れるのが一連の流れだから。そしたら、五郎さんが察知して殴るアクションをしてくれて、無事に僕はバタっと倒れた。終わったら、五郎さんも白井さんも「あれイイね!」ってほめてくれて、それで定着したんですよね。どこかで自分に違和感を感じていたんだと思います。ずっとのびのびと好きなことばかりやっていたのに、テレビ用の芸のことばかり考えるようになって、萎縮している自分がいた。カマキリは、萎縮した自分を解放した芸でもあったんだと思う。

――ところが、その芸風が『欽ちゃんのどこまでやるの!?』(以下、『欽どこ』)では逆風になるという。

関根勤 レギュラーになったはじめの頃は、萩本さんから「関根の笑いは何か嫌い」って言われていたくらい。今だったら、痛いほどその言葉の意味が分かりますね(笑)。『欽どこ』って、僕が加入する10カ月前に小堺君がレギュラーになって、訪問販売のコントをしていたんだけど、ちょっと違うなということで彼は黒子になった。ところが、前説も担当していた小堺君はフリートークが上手くて、本編にも登場するくらいメキメキと確固たるポジションを築き始めるようになって。僕はいつも言っているんだけど、小堺君は「藤井フミヤ6割顔」なんだよね。当時は、藤井フミヤさんにもっと似ていて、しゃべりも上手くて、女性の気持ちも代弁できる。彼が上昇気流に乗っている中で、カマキリをやっていた僕が加わるんだけど、かなえ(倉沢淳美)ちゃんの恋人役として登場するわけ。異物混入もいいところですよ(苦笑)。やっぱりお客さんもその違和感を感じ取って、僕が何をやっても全然ウケないの。ステップアップしていた小堺君は黒子からグレ子に昇格していたから、僕は空席になっていた黒子になって、「クロコとグレコ」に発展するんだけど、小堺君は『欽どこ』ファンに受け入れられている。一方で、僕はまだカマキリを引きずってるわけですよ。小堺君との差に焦りも感じるから、ますます空回りして、オーバーアクトになっちゃった。

――絵に描いたような悪循環……それで萩本さんから金言ならぬ欽言を授かるわけですか?

関根勤 関根、こっち来いと。「お前はね、100万円を持っていたら100万円をかざしてどうだ! という芸をしている。そうじゃないんだよ。5万円だけ見せてね、残りの95万円はポケットに入っているんですよっていう芸をしなさい」と言われたんです。その言葉を受けて、僕のオーバーアクトは収まるようになった。中華の食材を油通しするのと同じで、僕は2カ月間かけて油通しをしてもらったんです。僕の芸風のヌメリやアクを抜いてくれた。そのおかげで、テレビに映る僕は見やすくなって、視聴者の方から受け入れられるようになったんだと思います。それでも50万円くらい出していたときもあったと思うんだけど(笑)、萩本さんの助言がなければ、今の僕はいないでしょうね。

関根勤プロフィール

関根勤=せきね つとむ|1953年東京都生まれ。お笑いタレント、コメディアン。1970年、日本大学在学中に出演したTBS『きんざNOW!!』の「素人コメディアン道場」で5週連続で勝ち抜き、初代チャンピオンとなる。以降、50余年にわたり、多くのバラエティー番組や舞台、ラジオなどで活躍。1989年から主宰する舞台『カンコンキンシアター』では、ナンセンスな“裏関根”の顔も見せる。

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