千原せいじ『無神経の達人』刊行記念インタビュー「お前の中にある価値観のファックス、まず捨てろ!」

「BUBKA7月号」に登場している千原せいじ
写真=草刈雅之

ブブカがゲキ推しする“読んでほしい本”、その著者にインタビューする当企画。第55回は、『無神経の達人』の著者である千原兄弟・千原せいじ氏が登場。「がさつ」「デリカシーがない」――と言われる千原せいじだが、「マサイ族とも打ち解ける男」「コミュ力モンスター」としても一目置かれている。その虎の巻を開陳していただいた。

100年前と一緒

――『無神経の達人』は、コミュニケーションに特化された本です。なぜこの点にフォーカスを当てようと?

千原せいじ 出版社の方から、最近、大人が若者とコミュニケーションを取ることに苦労していると。時代も変わって、おじさんたちが若い世代とどうコミュニケーションを取っていいか分からなくなっているから、「せいじさん流のコミュニケーションを一冊にまとめませんか」とオファーがありました。と言っても、日ごろから僕が思っていることを詰め込んだだけですから、特に世代間のコミュニケーションに特化したつもりはなくて。おじさんが若者にとか、上司が部下にとかではなくて、人対人だったらこうなんちゃうの?ということを言わしてもらっただけ。僕は何においても、楽な方が一番なんです。例えば、「この人、多分仲良くなるな」と思った人には、時間をかけてアプローチする必要がないなって思ってしまう。そう思ったらギュンと距離を詰めたらええし、「この人はあんまり俺のこと好きそうじゃないな。俺も好きじゃないな」と感じたら、その距離感でいけばいいというか。

――その雰囲気って、匂いで感じ取るのでしょうか?

千原せいじ 会ったときにわかるんですよ。後で、「あ、勘違いしててごめんな」っていい方にひっくり返ることもあれば、悪い方に行くときだってあります。失敗だってつきものです。そしたら、「思ってたんと全然ちゃうんや」って見直せばいいだけ。僕は、暖気運転みたいな時間って、すごい無駄やと思うんです。ガッと入っていった方が、向こうも楽でしょ。自己紹介もそれで済むじゃないですか。その方が、「こいつこんな感じの人なんや」って分かりやすいし。

――ある意味、判断力というか決断力を伴うコミュニケーション力です。

千原せいじ それくらいのことで怒る人っておらへん。僕からすれば、皆さん、何をそんなに怯えているの、躊躇しているのというか。そんなに周りを気にしてどうすんの?って。みんなでご飯を食べに行くときって、誰でもあると思います。そういうときに、食べたいものを頼んで食べればいいのに、メニューを見ながら「これ、おいしそう~」とか「これ食べたいなぁ」とかつぶやく人がいるじゃないですか。僕、あれ見ていると「頼めや!」って言いたくなる。

――匂わすな、と(笑)。

千原せいじ そう! “察してほしい感”を出すなと。自分で決めてほしいんですよ。“察してほしい感”って、要するに自分で責任は持ちたくないってことでしょ。あくまで、みんなの合意を取った上で頼んだことにしたいんでしょう。だったら、「俺はこれ食べたいんだけど、頼んでいい?」とか言い方を変えればいいだけの話じゃないですか。今日ね、取材を受ける前に朝飯でフォーとガパオを食べたんですけど、一品の量がものすごく多いお店だった。あまりにも量が多いから残してしまったんやけど、「頼みすぎてもったいないことしたな」とか、僕は一切思わない。ただ、お店の人に、「別にまずくて残したんちゃうで。初めて来た店やから、こんなてんこ盛りでくるとは思てへんやん。できれば、量は多いですって書いといてほしいな」と伝えました。それを伝えないと、お店の人は「不味かったのかな」とか不安になってしまうかもしれへん。不味いわけちゃうで――という配慮があるかどうかの話なんです。

――タイトルこそ『無神経の達人』ですが、せいじさんは「不快にさせたり、傷つけたりしないように」と釘を刺しています。配慮があれば、“雑”でもいいと。

千原せいじ 最低限の心遣いやマナーみたいなものを守った上で、口に出したらええのにと思います。そんなんちゃいます、人間。性格って、右利きの人もおるし、左利きの人もおるくらいのこと。「あの人、右利きや!」って深く考えます? 考えないでしょ。考えすぎなんですよ。僕からすれば普通にやってきたことですから、自分のコミュニケーションが注目を集めるなんてまったく思ってへんかった。朝起きたらうんこするみたいな感覚と一緒ですから。

――本書でも、日本人は考えすぎだと警鐘を鳴らしています。

千原せいじ 考えすぎるから動けなくなる。動いたとしても、何かを言われることを怖がりすぎている。受け止めることに対して、すごい怯えているというか。別に直したらよろしいやん。意識することって大事じゃないですか。でも、そうやって意識することすら嫌がる人が多い。考えへんのですよ。考えないのって一番楽やから。何もしないってもったいない。そもそも、日本の教育にも疑問符が付くんです。息子が幼稚園に通っていた頃、上履きが必要ということで準備したんですけど、幼稚園から「ここに名前を書きましょう」と、上履きの四角い枠の中に名前を書いてくれと指示された。「終わってんな」と思いましたよ。靴を間違わへんために名前を書けということなんでしょうけど、だったら好きな絵を書いてもええし、おかんが何かを縫い付けてもええやん。名前だと鈴木君が二人いたらわけわからなくなるやん。間違わないためにしているはずが、みんな同じ枠の中に名前を書くことで、すでにコミュニケーション取れなくなっている。人間どころか、靴ともコミュニケーションが取れてないやん(笑)。

――(笑)。せいじさんはそういうシーンをたくさん見てきたと思うのですが、ストレスにはならないのですか?

千原せいじ 達観モードみたいになりましたね。昔は説明していたけど、今は「言っても無駄やろな」と思うようになりました。言ったところで、何にも響かないのはもうしんどい(苦笑)。それこそコロナ禍で、オンラインの打ち合わせが定着しましたけど、めっちゃ声が小さい人がいた。聞き取りにくい声量で話す人、あいつ何なんやろなって思う。

――オンラインって伝わりづらいから、一般的には対面よりオーバーに表現した方がいいと言われていますよね。

千原せいじ 本人はそこそこの声で話しているかのように振る舞うんですよ。でも、こっちは聴こえへんから何回も聞き直さなあかん。「こいつ、もうええわ」と思って、こっちもそういう温度感で接しましたけど、すごい損をしていると思いますよ。多分その人、どのオンラインでも同じ声量やったと思うんです。ということは、そのことに気が付いてないか、指摘されたのに直してないってこと。2年間もあったのに、何にも気が付かずにオンライン会議していたんやろなぁ。

――せいじさんは、コロナ禍で何か変化ってあったのでしょうか?

千原せいじ 多少はありましたけど、社会の雰囲気は戻ると思いますね。数年、十数年かかるかもしれませんけど。100年前のスペイン風邪流行を題材にした『マスク』という、菊池寛の小説を読んだんですけど、今と同じことをやってるんです。100年前と人間って変わってない。何を書いているかざっくり説明すると、「大学生がマスクをしていなかったからムカつく」とか「お手伝いさん全員を帰らせた」とか、今回のコロナ禍で起きたことと大差ない。人間、100年前と1ミリも成長してへん!(笑)  ということは、ぐるぐる回っているだけで、戻るんちゃうかなって。

――エジプトの壁画にも「今の若いもんはダメだ」的なことが記されているっていいますよね(笑)。とはいえ、コミュニケーションに関しては退化しているというか、悩んでいる人が増えています。「話し方」の自己啓発本が売れているという事実もあります。

千原せいじ 帰国子女の人が言うてはったことが印象的で、日本に帰ってきたときに会社の社食かなんかで一人でご飯を食べていたと。そうすると、決まって声をかけてくる人がいると。あれ、なんなん?って言われました。“一人で寂しいでしょ。仲間に入れてあげる”的な感じで言ってくるけど、こっちは一人で食べたいから食べているのに――そう呆れていましたわ。杓子定規というか全体主義というか、個を尊重できない点も気になりますよ。

取材・文=我妻弘崇

――まだまだ続くインタビューは発売中の「BUBKA7月号」で

千原せいじ=ちはら・せいじ|芸人。1970年1月25日生まれ、京都府出身。1989年、弟である千原ジュニアとコンビ「千原兄弟」を結成。テレビ番組の企画などでこれまでに70カ国以上を訪問し、卓越したコミュニケーション力が話題となる。2018年にメンタルケアカウンセラーの資格を取得。2021年、貧困・就学困難への支援や国際協力の推進等を主な事業とする一般社団法人ギブアウェイを設立、代表理事となる。著書に『がさつ力』など。

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