吉田豪「What’s 豪ing on」Vol.11 マキシマムザ亮君、やりたいことを薄めず届けるために

「What’s 豪ing on」第十一回のゲストはマキシマムザ亮君
撮影/橋本勝美
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第十一回のゲストは、言わずとしれたマキシマム ザ ホルモンで全作詞作曲からバンドにおけるすべてのクリエイティブディレクションを担当する、マキシマムザ亮君。バンド活動でさまざまな仕掛けを施してきた彼の希少な超ロングインタビュー、念願の実現です。

サービス過多コッテリ

――まず、ボクと亮君の絡みはありそうでないってよく言われてたんですよ。『BUBKA』仲間でもあり、サブカルだの鬱だのパンクだの、切り口はいくらでもあるはずなのに。調べたら唯一の共演が07年開催の伝説のイベント『アダルトトレジャーエキスポ』でした(笑)。

マキシマムザ亮君 あ、ありましたねえ!

――アダルトグッズ見本市みたいなもので、ボクはあのトークコーナーに出てるんですけど、ホルモンもライブしてたんですよね。

マキシマムザ亮君 伝説のアダルトフェス! 幕張メッセでダッチワイフやディルドの新製品の紹介ブースにまざってホルモンのライブ。しかも対バンがまさかのボーイズⅡメン!

――ボーイズⅡメンとクレイジーケンバンドとZEEBRAとホルモンがライブやって。ボーイズⅡメンのライブのとき潜り込んだら、会場がガラガラでビックリしましたよ。

マキシマムザ亮君 たしかボーイズⅡメンのライブだけは課金オプションだったような(笑)。

――そうです。アダルトブースは自由に観られるんだけどライブスペースは有料で、そしたら誰も行かないような状態になった、と。

マキシマムザ亮君 そうそうそう!

――ホルモンは大丈夫だったんですか?

マキシマムザ亮君 ホルモンライブはフリーだったんでお客さん満員になるくらい来てくれて。でも、あの日実はフジロック出演の話もあったんですよ。悩んだ結果「俺達はアダルトフェスに出た方がロックでしょ!」って(笑)。

――完全に間違ってますよ(笑)。

マキシマムザ亮君 おもしろかったのが、ホルモンのライブ見たくてライブ初心者なファンが地方からわざわざ遠征して来てくれたんですよ、アダルトフェスと知らずに。

――ふつうのロックフェスだと思って来て。

マキシマムザ亮君 それで帰り際に、馴れていない満員電車の中で網棚に荷物置いたら、会場でもらったサンプルのTENGAやローションとかピンクローターとホルモンのグッズがすべてバサーって紙袋から落としてしまったっていうファンからの報告が来たり(笑)。そんな濃い思い出が生まれたし、アダルトフェス選んで正解でしたね。

――そういう選択が独特のグループですね。どう考えたってフジロックじゃないですか。

マキシマムザ亮君 過去にもメタリカが来日するときもオープニングアクトでホルモンはどうかってオファーが来たんですけど、そのときも同じタイミングで神戸でガガガSPっていうバンドがイベントやってて、そっちからも声がかかって、「メタリカとガガガ……そんなの絶対ガガガじゃないか?」って。メタリカなんて僕の中で神様すぎて、もう怖いじゃないですか。

――え! 断った理由はそれ?

マキシマムザ亮君 メタリカ見にきた客に「なんでおまえらが出てんだよ!」とか叩かれても照れちゃうし。

――ひねくれてるわけでもないんでしょうけど、『アダルトトレジャーエキスポ』のほうが受け入れられそうだと思う人なんですね。

マキシマムザ亮君 はい。そっちのほうが美味しい(笑)。

――音楽関係も含めて、取材は断ることが多いっていう発言もあったじゃないですか。

マキシマムザ亮君 そんなこともないんですよ。もちろんテレビで楽曲演奏する出演は断るけど。

――そこはハッキリしてますよね。

マキシマムザ亮君 テレビ通して僕らの楽曲の真の熱量を届けられる自信がないのと、普通にブスな奴らがお茶の間の画面汚すだけなんで、ただのネガティブキャンペーンじゃないですか、あんなもん。

――え! そういうことだったんですか?

マキシマムザ亮君 魂込めてウワーッとか、頭振れば振るほどお茶の間は観てて不愉快だろうなって。

――高画質な映像で大画面で観るには。

マキシマムザ亮君 そう、自分でも嫌ですもん。だからライブやフェスで生で味わって欲しいって思いますね。

――バラエティは別なんですか?

マキシマムザ亮君 バラエティはまだ他のメンバーはああいうの好きだし得意なんで、オファー頂けたら、バンドのスタジオ練習の時間と被ってなければ、全然出演すればいいんじゃないかなと。

――ボク、最近もナヲさんと同じ番組(日本テレビ『1番持ち寄りバラエティ 我がMAX』)に出たことありますからね。

マキシマムザ亮君 ナヲは地上波けっこう出ますからね。でも、あんまり副業ってスタンスではなくて、基本的には人生の思い出作りでいいのかなと(笑)。『ミュージックステーション』でバンドで曲やって味が薄まったロックをPRするくらいなら『タモリ倶楽部』に出たほうが良い。同じタモさんなら、タモリ倶楽部で会いたいって気持ちを大事にしたい。『ダウンタウンDX』も、松ちゃん(松本人志)に死ぬまでに会ってみたいってことで僕もナヲと一緒に出演したり。

――ダウンタウンに会えるんだったら、多少向いてない番組でも喜んで出るタイプ。

マキシマムザ亮君 そうですね、なんのプロテイン飲んでるかまでは聞けなかったのが心残り。

――最初からそういう感じだったんですか?

マキシマムザ亮君 メジャーデビューする前かな。そもそもメディアとかテレビの話が来なかったから、いま思うと深夜とかにチョロッと演奏してくれってヤツがあって1回出たんですよ。そしたら僕ら、歌のパートがコロコロ替わる曲なのに、やっぱテレビはカメラマンさんも曲を知らないから。

――リハちゃんとやらないと対応できない。

マキシマムザ亮君 そう、リハもできなかったし、誰がボーカルかわかんないから僕がサビ歌ってるのに、ずっとフロントマンのダイスケはん映したまんまだとか、ギターの音下げられて歌の音量だけバランス悪く出されたりとか、そこでもうムカついて、それ以来一回もテレビで演奏してないですね。

――だったら自分たちでコントロールして、やれる限りはやっていこうってなった、と。

マキシマムザ亮君 そうですね、だから出るときは自分でカメラアングルから編集まですべて徹底して自分の作品としてでないと、世に出したくないっていうのはあります。テレビだとあくまで番組側の作品なわけで。自分のこだわりはやらせてもらえない。

――異常なこだわりがありますよね。

マキシマムザ亮君 異常なとこありますね。

――正直、やりすぎじゃないですか?

マキシマムザ亮君 もう病的です。でも、こだわらないところはぜんぜんこだわらないですけどね(笑)。

――何がきっかけでここまで病的になっていったのか。サービス過剰だと思うんですよ。

マキシマムザ亮君 そうですかねえ? でも、周りがやらないだけな気がしてて。実際、他のミュージシャンがあんまやってないだけですよ。そもそも無駄なこだわりでなにかブーストさせなくてもカッコいいですから。黒帯の人たちはそれでいいんですよ(笑)。

――音楽に専念しても成立するものなのに、なぜそうじゃないことをそこまでやるのか。

マキシマムザ亮君 弱虫ですからね。

――よく自分たちは白帯だとか、基本的に自信がないみたいな話はよくしてますよね。

マキシマムザ亮君 ずっと自信ないし、フラレるイメージが先に湧いちゃう。

――もっとサービスしなきゃとか考える。

マキシマムザ亮君 そう、もっと振り向かせたいがばかりに(笑)。こういう話すると「いやホルモンなんて今や黒帯じゃん」とか言われるんですけど、それって知名度とかキャリアとかのことかもしれないですが、 やった経験人数とか関係なしに、いまだに童貞丸出しな奴だからこそ、きちんと上手に相手を満足させられる自信がないし、傷つきたくないから意気込んでちんこ必要以上に洗って、結果本番前に亀頭傷つけちゃうタイプ。ズル向けヤリチンならそんなことしない。

――いつからそういう発想に至ったんですか? 最初はそこまで考えないでバンドを始めて。

マキシマムザ亮君 素人時代からどこ行ってもそうで、「みんなうまいなあ、怖いなあ、僕らみたいなイモくさいヤツらが……」って、いつも楽屋にいるだけでソワソワしちゃってて。

――楽屋の居心地は悪そうですよね。

マキシマムザ亮君 居心地悪いですよ! 怖い!

――どこのジャンルでもしっくりこない?

マキシマムザ亮君 そうなんですよ! 楽屋怖かったなあ……見た目がおしゃれなバンドマンってだけで嫌いだったなぁ。こいつらロックじゃねーよって決め付けてたら、リハから演奏超うまいし。イカツイ見た目のハードコアな人たちもトイレで立ちションしてる会話がもうポリティカルで、なんか政治に対して怒ってて、「うわー、なんか本物だ。かっけー」って萎縮したり。だから僕ら口にガムテープ貼って縛られた状態で入場するとかしてました。

――最初から直球じゃ勝負しづらいなっていうのがあったんですかね。そういう謎の工夫の先に完全にどうかしたDVD(『Deka Vs Deka~デカ対デカ~』。アドベンチャーゲーム形式のスタートアップディスクをクリアしてパスワードを入手しないと、他のディスクが視聴できない。制作費が足りなくなったので亮君が自腹で1000万円追加投資した)とかがあるんでしょうけど、あれこそあそこまでやる必要はないじゃないですか。

マキシマムザ亮君 ないっすね(笑)。

――ホームページの充実ぶりも含めて、何から何までサービスしすぎなんですよね。

マキシマムザ亮君 ファンを楽しませることが一番大事なんですが、最近は相手にどれだけ潮吹かせるかではなく、その時自分もちゃんとイってないと意味ないと思ってて。そういった僕の作品作りに対して「自己満オナニー」だと思う人もいるでしょうし、確かにノーマルな人たちからしてみれば、こんなプレイでお互いがイってる関係性はなかなか理解できないと思います。それに「いや、待て亮! 双方がイってねえよ、おまえだけが勝手に興奮してんだろ、変なプレイなんて求めてないからもう普通に入れてくれ」って考えのファンも中にはいると思います。でも、普通のプレイなんかだけで、このあらゆるコンテンツに溢れた時代に、僕らみたいな灰汁の強いバンドが埋もれずにいれるほど甘い世界じゃないんですよ。普通を求めるファンを喜ばす普通のバンドの活動してたらとっくに運営維持できず、活動の規模は縮小して数人の固定ファンの前だけで普通にライブやりつづけて、当たり前に生活もできないだろうし、きっとバンドを脱退して、個人で音楽活動を家でコソコソしては一人ニヤケる、本当のオナニーアーティストな人生になっていたかと思いますね。

取材・文/吉田豪

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マキシマムザ亮君|1978年、東京都町田市生まれ。1998年に結成されたバンド・マキシマム ザ ホルモンの「歌と6弦と弟」。全ての楽曲の作詞作曲を担う。亮君の「君」は「○○くん」ではなく「暴君」の「君」である。

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