田村潔司「解析UWF」第14回…ファンの大きな期待と現実の厳しい闘い

2000年5月26日、東京ドームにて行われた『コロシアム2000』での田村潔司vsジェレミー・ホーン
写真提供=平工幸雄
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田村潔司はリングスのエースの座を前田日明から受け継ぐが、21世紀の始まりとともにそのリングスを離脱し格闘技の道へ進むことになる。その一方で自らジムや興行を立ち上げ、今までとは異なる形でUWFの精神を継承することになる。どんな時代や状況にあっても、田村とUの精神は不滅なのだ。

2001年5月をもってボクはリングスを退団した。Uインターから移籍してきたのが96年6月だったので、リングスには丸5年間の在籍だった。リングス離脱を決めた直接の理由は、べつにPRIDEから引き抜きの話があったわけでもないし、リングスCEOの前田日明さんと確執があったわけでもない。ハードな試合を続けてきたことで、身体は満身創痍、心身ともに限界に来ていたから、試合ができる精神状態ではなかった。

ボクは98年ぐらいから前田さんに代わってメインイベントを務めるようになって、毎大会気を張って頑張ってきたけれど、リングスの試合スタイルやルールが格闘技に寄っていくと、どんどん精神的にも肉体的にも消耗が激しくなっていった。

リングスは99年10月からKOKルール(顔面パンチを禁止にしたMMAルール)に変わり、完全な総合格闘技団体になったが、興行形態はUWFスタイルのリングスルール時代のまま。いまのMMAでは考えられないことだけど、当時のリングスは2カ月に一度大会があり、所属選手は基本的に毎回出場するのが当たり前だった。トーナメントになると勝てば1日2試合闘うことになり、2000年5月26日には『コロシアム2000』という東京ドームで行った大会にも出場したりと、1年に10試合ぐらいしていた。しかも“エース”は毎回メインイベントに出て、勝つだけではなく観客を満足させて帰らせることも求められた。「一枚看板のエース」というのは前田さんの時代で終わりで、ボクには到底、前田さんの代わりはできない。前田さんが引退されてからは、日本人の中心選手たちみんなでリングスを盛り上げていかなければならないと思っていたのだけれど、髙阪(剛)はアメリカに拠点を移してUFCに定期参戦するようになってしまったし、ヤマヨシ(山本宜久)や他の選手もケガで休んでいたりして、リングス・ジャパンで活躍しているのはボクぐらいしかいなくなってしまったのだ。

怪我で試合を休んだりするのはしょうがない。でも、他の選手が欠場し、ボクがメインを張り続けたことでこれまでにない負担がかかったことも事実だった。自分自身も怪我が多くなり、もうすべてがオーバーヒートしていた。2000年の夏頃には、そんな現状への苛立ちもあって雑誌のインタビューなどで改善を提言したり、団体批判的なことを口にもした。ただ、リングスの体制を批判することはすなわちトップである前田さんへの批判とも捉えられ、あの頃は団体内もギクシャクした雰囲気になっていたと思う。

そして2000年10月に開幕した第2回KOKトーナメント。ボクは1回戦でリングス・グルジアのグロム・ザザに判定勝ちしたあと、1日2試合の2回戦で、のちのPRIDEヘビー級王者アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラと対戦。自分としてはやれるだけのことをやって臨んだ試合だったけれど、やはりヘビー級のノゲイラとは体格差もあって、腕ひしぎ十字固めを極められ敗れてしまった。

その後、結局ノゲイラは優勝。負けたのは悔しかったけれど、自分としては少し肩の荷が降りた感はあった。しかし、当時のリングスはトーナメントで敗退しても休むことは許されなかった。

KOK決勝トーナメントが組まれた01年2月24日の両国国技館大会では、同じく2回戦で敗退した前年度準優勝者レナート・ババルとの試合が組まれた。ババルは前年のKOKトーナメントで、ボクがヘンゾ・グレイシーを下したあと準決勝で敗れた相手。いわばリベンジマッチという図式だったけれど、お互いが勝ち上がっての再戦ならともかく、お互い2回戦敗退同士の言わば消化試合。いちど気持ちが切れた中での試合だったので、なかなかモチベーションが上がらなかった。

そんな中でもババルとなんとか張り合って判定勝負に持ち込んだけれど、会場の反応はどえらいブーイング。ババルは当時20キロ近く重いヘビー級で前年度準優勝の実力者。そのババルに0・2という僅差の判定負けだったので、今なら批判されることもなかったとは思うけれど、当時、リングスのエース的立場だったボクの場合はそうではなかった。

自分で言うのもなんだけれど、リングスに来てからはファンの期待を上回るような試合をしてきた自負もある。だから自分でファンの期待値を上げすぎてしまって、普通の試合をやってその期待値を下回ったからブーイングが起きたんだと思う。

当時、リングスの公式ホームページにはファンが書き込める掲示板があって、自分で直接そのページにアクセスすることはなかったけれど、ファンからの質問などもよく書き込まれていたので、リングスの事務所スタッフがそれをプリントアウトしてボクに見せてくれていた。その流れで、ババル戦のあともプリントした書き込みを見せてもらったんだけれども、「つまらなかった」とか「エース失格」とか、さんざんな言われよう。真っ当な意見ではあるが、これには少し落ち込んだ様に記憶している。今思うとそれはファンの期待の裏返しであり、新日本のアントニオ猪木さんや、UWF、リングスでの前田さん、Uインターでの髙田(延彦)さんのようなエース像を求められていたんだと思う。

でも、“U”がプロレスから格闘技へと進んでいく中で、それは本当に難しくなっていった。パンクラスでの船木(誠勝)さん、リングスでの田村、そしてPRIDEでのサク(桜庭和志)も含めて、ボクらはファンの大きな期待と現実の厳しい闘いの中で必死に生きていた世代なんだと思う。

このババル戦の2カ月後、21年4月に行われたグスタボ・シム戦を最後にボクはリングスを退団した。この時は、小指の靭帯が切れていて中指も重度の突き指のような怪我をしており、グローブもハメることができなかった。そのためボクのリングス最後の試合は、KOKルールではあるけれどグローブを付けずに素手で出場した。

取材・文=堀江ガンツ

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田村潔司たむら きよし|1969年12月17日生まれ、岡山県出身。1988年に第2次UWFに入団。翌年の鈴木実(現・みのる)戦でデビュー。その後UWFインターナショナルに移籍し、95年にはK-1のリングに上がり、パトリック・スミスと対戦。96年にはリングスに移籍し、02年にはPRIDEに参戦するなど、総合格闘技で活躍した「孤高の天才」。現在は新団体GLEATのエクゼクティブディレクターを務めている。

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