2022-11-04 11:10

辺境ノンフィクション作家・高野秀行氏が明かす語学習得法

ノンフィクション作家・高野秀行氏
ノンフィクション作家・高野秀行氏

ブブカがゲキ推しする“読んでほしい本”、その著者にインタビューする当企画。第48回は、『語学の天才まで1億光年』の著者である高野秀行氏が登場。「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをし、誰も書かない本を書く」をポリシーとする辺境ノンフィクション作家の語学習得法とはいかに!? 唯一無二の名作を生み出す舞台裏が明かされる。

語学の変態

――本書は、コンゴの怪獣やアマゾンの幻覚剤、アヘン栽培体験などなど、これまで綴ってきた魅惑に満ちた舞台……その裏側とも言える、現地の語学(言語)をつたないながらも習得しようとする高野さんの語学青春記です。なぜ、語学にフォーカスを当てようと?

高野秀行 元々言語がとても好きで、いつかそういった本を書いてほしいと言われたり、自分でも書きたいという思いもあったのですが、なかなか機会がなくて。僕は、外国に出かけて取材や旅をしては、戻ってきて原稿を書くことを繰り返しています。おまけに、常に取材先の言語を学んでいる(笑)。そのサイクルにはまっている限り、語学に関する本を書く暇がなかった。ところがコロナ禍で海外にまったく行けなくなっちゃったんですね。結局、2年ほど行くことができなかったからその間に自分が体験してきた語学について書いてみようと。

――フランス語、スペイン語、中国語といったメジャーな言語から、アフリカの言語であるリンガラ語、ミャンマーのシャン州で使われるシャン語などマイナーすぎる言語まで体当たりで学ぶ……「誰でもいいからネイティブに習う」といった高野流の習得方法に感心しつつも、何度も笑わせていただきました。高野作品のスピンオフを読んでいる気分というか。

高野秀行 言語を通じて自分の体験を振り返ると、とても生々しく思い出すんですよね。僕は、すぐに昔のことを忘れてしまう。例えばコンゴで謎の怪獣を追った『幻獣ムベンベを追え』は、デビュー作ですから相当昔の話です。普通に思い返すと、「そういうこともあったなぁ」くらいなんですが、言語ってすごく記憶の奥の方に入ってるんですよね。なので、そこを掘り返していくと当時のことがよみがえってきましたね。

――インドで盗難にあったことを機に、「話したいことがあれば語学はできるようになる」とわかったことで、語学の大切さや面白さに開眼した――というエピソードを読んで、僕もインドでぼったくられたときのことを鮮明に思い出しました(笑)。つたないながらも現地の警察に一生懸命伝えたなって。

高野秀行 この本を読んでいただいた方の感想や、知人・友人の感想を聞くと、自分の海外体験や語学体験を思い出したという方がとても多いんですよ。そういった感想はうれしいですよね。

――同時に、語学に対して適当になっている今の自分に、「昔はもっと一生懸命だったのに」と自戒の念を抱いてもしまいました(笑)。

高野秀行 僕も書いていて、初心に帰ったなぁ。25以上の語学を自分なりに学んできて、「すごい」と言っていただけるのですが、ものすごく語学コンプレックスもあるんですよ。すべて中途半端だなって。きちんとモノにする語学の天才がうらやましい……。

――いやいや! 高野さんは、語学の天才ではないかもしれないですけど、語学の変態だなと思いました。

高野秀行 たしかにそうかもしれない。語学の変態は適切かも。これからは、そのフレーズを使っていこう(笑)。

――モテたいから語学を習うとかは理解できますけど、麻薬を自分で作りたいから(ミャンマーの一地域でしか使われていない)シャン語を習い始めるとかどうかしてますよ(笑)。でも、実際にそれを実現してしまうからすごい。本書でも書かれているように、語学は“魔法の剣”なんだなと。

高野秀行 僕は語学によって、人生の序盤戦を打開できた。成功体験ですよね。切り開けたからこそ、そこにしがみついてしまったんです。当時は、語学が今とは比べ物にならないほど大きな武器という感覚でした。今はネット社会になって、自動翻訳、自動通訳もある。あの頃は、そういったものが一切なくて、国際電話をかけるのも大変な時代。言語、特にマイナーな言語は情報自体がないし、学ぼうという人はなおさらいなくて。でも、言語を学ぶことが、一種の探検というか、洞窟に入っていくような感覚でもありましたね。

――たしかに、本書は語学青春記であり、語学探検記でもあると感じました。

高野秀行 僕は他人から「こういうふうにやりなさい」と言われたり、やり方が決まっていてそれに沿って進んだりすることが、本当に苦手だし嫌い。自分でやり方やルールを見つけたい。4歳児とか5歳児がそうらしいです。いくら親が言っても、絶対にその通りにやらない。だから、僕は5歳児の感覚で生きているのかもしれない(笑)。自分で発見したことって、忘れないですよね? 語学も一緒で、自分なりにその語学の法則を見つけると忘れない。遠回りかもしれないけど、自分で発見した方がいいと思うんですよ。

語学の天才まで1億光年
Amazonで購入

BUBKA12月号 コラムパック
Amazonで購入

Amazon Kindle

楽天Kobo

Apple Books

紀伊國屋Kinoppy

BOOK☆WALKER

honto

セブンネットショッピング

DMM

ebookjapan

ブックパス

Reader Store

COCORO BOOKS

コミックシーモア

ブックライブ

dブック

ヨドバシ.com

その他、電子書籍サイトにて配信!

Twitterでシェア

関連記事

BUBKA RANKING11:30更新

  1. 吉田豪インタビュー、岡崎体育『紅白』につながるならどんなことでもやる
  2. 宮戸優光「前田さんとの関係が、第三者の焚きつけのようなかたちで壊されてしまったのは、悲しいことですよ」【UWF】
  3. R-指定(Creepy Nuts)が語るスチャダラパーの時代
  4. Uインターの生き字引 鈴木健が語る 髙田延彦vs北尾光司戦の真実
  5. 乃木坂46 新成人メンバーの絵馬に込められた想い
  6. 船木誠勝「ガチンコでやれば八百長って言われなくなる 単純にそう思ってましたね」【UWF】
  7. 【BUBKA1月号】侍戦士と振り返る、80、90年代の豪快プロレス黄金時代…越中詩郎
  8. 吉田豪インタビュー、TOSHI-LOW 90年代、あの刹那の先にある今
  9. 乃木坂46弓木奈於、B級ニュースで話題の“ナカジマさん”「ナカジマさんっていう名前じゃなかった」
  10. 【BUBKA WEB限定カットあり】私立恵比寿中学・星名美怜、昨年開催された「大学芸会」を振り返る
  1. AKB48 64thシングルは18人体制に!徳永羚海と正鋳真優が初選抜
  2. 乃木坂46五百城茉央「加入当初はすべてに緊張しすぎていて…」自身の成長・変化を明かす
  3. 乃木坂46阪口珠美1st写真集より大人の魅力あふれる新カット解禁
  4. 日向坂46正源司陽子『新参者』公演を終えて思うグループの“未来”
  5. R-指定が語る、団地が生んだ「路上の詩人」O2
  6. 平川結月「生身のアクションにも興味」俳優として飛躍を誓う
  7. “キングオージャー”でも注目の平川結月、1st写真集発売「書店に並んだ時のインパクト」表紙カットを語る
  8. 「乃木坂配信中」コラボ企画第1弾、乃木坂46・五百城茉央と日向坂46・正源司陽子のグループを越えた「いとこ共演」が遂に実現
  9. “歌い手”中西アルノの成長ドキュメント…『Spicy Sessions』4月・5月のゲストが明らかに
  10. AKB48 64thシングル選抜メンバー、新たに小栗有以・山﨑空・橋本恵理子・倉野尾成美が決定